M型ライカは35mmと50mmどっち?僕が50mmと答える理由と、アポズミ150万円の別の使い道
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M型ライカのレンズで迷っているなら、僕の答えは50mmだ。35mmは何を入れて何を外すかの計算が要る。50mmは、どこを切り取るかを楽しめばいい。ただし写りの好みだけは、最後まで人それぞれ残る。
先に立場を書いておく。僕はLeica M11ブラックペイントにズミクロンM 50mm f/2を付けて常用している。ライカで後悔する4パターンを書いた記事に書いたQ2(28mm固定)はM11の資金にするため手放し、いまはM11のほかにHasselblad X2D、Nikon ZR、RICOH GR IIIを使い分けている、よくいる写真好きの父親だ。だからこの記事の50mm推しは、ズミクロン50を使い続けている一次体験に立っている。
逆に、後半に出てくるアポ・ズミクロンM 50mm、ズミルックスM 50mm、Light Lens Labの周八枚の3本を、僕は所有していない。触ってもいない。憧れと、公表されているスペックと、実売価格の算数から書く提案だ。ここを最初にはっきりさせておく。
最初の一本は35mmと50mmどちらがいいか?
「一本だけなら35mm」。ライカ界隈でよく言われる通説で、これには実質がある。35mm派の言い分をフェアに並べてみる。
ゆるカメライフは35mmと50mmの比較記事で、「『単焦点1本しか持っていけない』と言われたら」35mmを選ぶと結論している。ライカ専門店のアトリエライカは、35mmを「ブライトフレームの関係で最も見やすく、また準広角ゆえにスナップもしやすい絶妙な焦点距離」と書き、「50mmよりもより客観的に写真を撮れる35mmはレンジファインダーとの相性が抜群」とまで言う。みんなのカメラは「35mmは、人物を撮っても背景の情報が残りやすく、街の空気感を写真に入れたいときに向きます」。「ズミクロン35mmがあれば十分」と言い切るnoteもあるし、Reddit r/Leicaにも、一本ならこれで何でもできる、という趣旨の声が並ぶ。
全部、本物の言い分だ。35mm派を否定する気はまったくない。
それでも僕は50mmを選んだ。理由は単純で、35mmの面白さの出し方が、僕にはつまらなかったからだ。広く写る画角は、面白い一枚にするために「何を入れて、何を入れないか」の計算がついて回る。背景の整理、余白の設計、画面の四隅の管理。僕はQ2の28mmでこの計算をさんざんやってきたから、広い画角の性格は体で知っている。35mmは28mmほど極端ではないにせよ、同じ性格が残る。この引き算のパズルが好きな人には、35mmはたまらない画角のはずだ。ただ、僕の性には合わなかった。
50mmは逆だ。目に留まったところを、切り取るだけでいい。ファインダーを覗いた瞬間に主役が決まる。街を歩いていると、看板の影、路地の光、すれ違う人の輪郭、そこらじゅうが額縁に入って見えてくる。この、街のあちこちを切り取っていくアートのようなスナップが、僕には面白くて仕方がない。
同じことを言っている人は多い。ゆるカメライフは50mm側について「写る範囲が狭いおかげで無駄なモノが写り込まない」「その1枚における主役が自然と決まる」と書いているし、アトリエライカの50mm記事は「これこそがライカである」と言わしめる描写のレンズ群だと表現する。Redditにも、クラシックなストリートフォトの伝統は50mmで、選ぶことを迫ってくる画角だ、という趣旨の声がある。
「初心者だからまず35mm」という配慮も、怪しい。Ichiro Photographyは「とりあえず被写界深度の深い35mmを勧めるパターンもあるが、僕は最初は50mmが良いと思っている。うちの娘は7歳と5歳だが、僕のSummilux 50mm f1.4で普通にピントをゆっくり合わせて上手に撮る。別に難しい事など何もない」と書いている。50mmは背伸びの画角ではない。
選択軸を表にしておく。
| 選択軸 | 35mm | 50mm |
|---|---|---|
| 写る範囲 | 環境と背景ごと「閉じ込める」 | 主題を選んで「切り取る」 |
| フレーミング | 何を入れて何を外すかの計算が要る | 目に留まった場所を切り取る。主役が自然に決まる |
| ファインダー | ブライトフレームが広く見やすい | M3系は50mm基準の設計 |
| 被写界深度 | 深い。ゾーンフォーカスと相性が良い | 浅い。ボケと立体感を作りやすい |
| 通説 | 「一本だけなら35mm」とよく言われる | 「これこそがライカ」(アトリエライカ) |
どちらが上という表ではない。どちらの遊びが自分の性に合うか、の表だ。
35mmがしっくり来ないのは腕のせいか?
腕のせいではない、と僕は思う。画角の性格の問題だ。
あなたが35mmを使っていて、撮った写真がどこか説明的になる。全部写っているのに、何が撮りたかったのか自分でも分からない一枚が増える。もしそんな違和感を抱えているなら、それは技術の不足ではない。引き算で画面を作る画角と、一点に目が行くタイプの目との、相性の問題だ。逆の相性の人もちゃんといて、その人たちが35mmの傑作を撮っている。
だから、50mmを買い足すのはセンスの敗北ではない。役割分担だ。空気ごと残したい日は35mm、主役を切り取りたい日は50mm。2本の使い分けは、M型というシステムの素直な使い方だと思う。定番を選んだ判断も間違いではなかったし、そこに一本足す判断も間違いではない。
買い足しの現実解は次の章に書くが、新品にこだわらないなら、ズミルックスM 50mm ASPHの6bitコード付き美品がメルカリで350,000円という出物も実査で確認できた(現行か旧型かは型式の確認が要る。2026年7月28日時点)。50mmの入口は、思っているより広い。
アポズミクロンの150万円で買えるもの
50mmに決めたとして、次に立ちはだかるのが「どの50mmか」だ。頂点にいるのがアポ・ズミクロンM 50mm f/2 ASPH.、通称アポズミ。ライカ公式は「微細な色収差さえも徹底的に補正することを目的として開発された」「絞り開放でも色収差や像の歪みが一切ない、卓越したシャープネスを実現します」と書く。値段はライカストアで1,584,000円、キタムラで1,504,800円。「アポズミは150万」とよく言われるのは、この実売の話だ(2026年7月28日時点)。
僕も憧れている。M型の50mmの話をしていて、アポズミに心が動かない人はたぶんいない。
ただ、僕ならその150万円をこう使う。ズミルックスM 50mm f/1.4 ASPH.(現行)と、周八枚の2本だ。
| レンズ | ライカストア/正規新品 | 実勢新品 | 中古の目安 |
|---|---|---|---|
| アポ・ズミクロンM 50mm f/2 ASPH. | 1,584,000円 | 1,504,800円(キタムラ) | 729,200円〜(キタムラ中古) |
| ズミルックスM 50mm f/1.4 ASPH.(現行11728) | 891,000円 | 846,450円(キタムラ・納期未定) | 350,000円(メルカリ・ASPH美品6bit付。型式要確認) |
| LIGHT LENS LAB M 35mm f/2 周八枚 | 171,000円(焦点工房) | 171,000円(焦点工房 楽天) | 98,800円〜(メルカリ) |
| 2本合計(ズミルックス50+周八枚) | 1,062,000円 | 1,017,450円 | |
| アポズミとの差額 | 522,000円 | 487,350円 |
※価格は2026年7月28日時点・税込。実勢欄の2本合計は、キタムラのズミルックス846,450円+焦点工房の周八枚171,000円で計算した(周八枚のキタムラ取扱は未確認)。
ストア価格同士で、2本合計1,062,000円。アポズミとの差額は522,000円。僕が常用しているズミクロンM 50mmの新品が506,000円だから、おつりでもう一本買えて、まだ16,000円残る計算になる。
150万円で買えるのは、一つの完璧だ。106万円で買えるのは、開放f/1.4の現代標準と、1950年代の伝説を蘇らせた35mmという、性格のまったく違う二つの描写だ。M型は気分でレンズを替えて遊ぶカメラなのだから、完璧が一つ防湿庫にあるより、性格の違う二本が鞄の中で出番を待っている方が、僕は楽しめると思う。それがこの記事の算数だ。
断っておくと、この3本を僕は持っていない。だから描写の優劣はここに書けないし、書かない。そして、アポズミを買う選択も、貯金を続ける選択も否定しない。憧れは憧れのままでいいし、アポズミを買わない選択も妥協ではない。ここに書いたのは、同じ150万円から引き出せる「楽しみの総量」の話だ。
ちなみにズミルックス50には復刻版の11714(非ASPH・新品700,150円)もある。キタムラは「圧倒的に美しいボケ味が魅力の銘玉が再登場」と書いていて、現行ASPHの「近接45cmから無限遠まで」「絞り羽根の枚数を従来の9枚から11枚に増やす」という現代性とは狙いが違う。現代の使い勝手か、オールドらしい柔らかさか。ここも写りの好みの領域だ。
周八枚とは何か?オリジナル八枚玉との違い
もう一本の主役、周八枚(しゅうはちまい)の説明をしておく。
Light Lens Labは中国の新興レンズメーカーだ。正規代理店の焦点工房は「中国の投資家である周氏が3年以上掛けて進めてきた復刻プロジェクトにより製品化されたもので、通称『八枚玉』と呼ばれた最初期のライカ製『35mm F2』と非常に近い性能を持ちます」と説明している。つまり完全な同一設計を名乗るものではなく、オリジナルに非常に近い性能を目指したレプリカだ。真鍮鏡筒にダブルガウス構成、マウントはライカM。シルバーが171,000円、ブラックペイントが178,200円で、焦点工房経由なら自然故障3年保証が付く。ブレッソンの名を冠した世界限定200本モデル(288,000円)まで存在するあたり、作り手の熱量がうかがえる。
一方のオリジナル八枚玉、1958年から1969年に生産された初代ズミクロン35mm F2(マップカメラの解説より)は、いまや完全にコレクターズアイテムだ。ヤフオクの180日落札相場は平均470,671円、マップカメラの在庫実査では678,000円から858,000円(2026年7月28日時点)。しかも半世紀選手だから、クモリ、バルサム切れ、整備歴と、良い個体を引く目利きが要る。そして良い個体を引いたら引いたで、怖くて雨の日に鞄へ放り込めなくなる。道具ではなく資産になってしまう。
だから僕は、周八枚を「オリジナルを諦めた人の妥協」だとは思わない。「資産としての八枚玉」と「写り体験としての八枚玉」を分けて考えれば、周八枚は後者を日常で使い倒すための道具だ。レプリカを選ぶのは逃げではなく、役割分担だと思う。
なお、周八枚も僕は未所有だ。ここは焦点工房の公表情報と実売価格からの紹介で、描写の実体験は書けない。「周八枚 作例」で検索すると個人レビューが多数出てくるので、買う前に必ず自分の目で写りを確かめてほしい。
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メルカリでは周八枚の中古が98,800円から110,000円あたりで動いている(2026年7月28日実査)。新品との差は6〜7万円。差額を取るか、新品と正規3年保証を取るか。171,000円のレンズなら、僕は保証付きの新品を取る。
誰のための50mmか。4つの分岐で判定する
ここまでの話を、迷い方の違う4人に分けて当てはめる。
これから最初の一本を決める人は、50mmを買え。 現実解はズミクロンM 50mm f/2(新品506,000円)だ。ライカ公式が「絞り開放からきわめてコントラストが高く」「絞り開放でも十分美しく撮影できます」と書く通り、開放から実用の、標準の教科書のようなレンズだと、常用している僕は思っている。予算が許すならズミルックス50(891,000円)から入る手もある。ただし、ここまで読んで「街の空気ごと残したい」「環境込みの写真が好きだ」と感じた人は、35mmでいい。それはあなたの目が35mmの目だということで、通説に従う話でも逆らう話でもない。ボディから迷っているなら、EVF搭載のM EV1について書いた記事も参考にしてほしい。
35mmを持っていて、しっくり来ていない人も、50mmを買え。 繰り返すが、腕のせいではない。画角の性格だ。35mmを手放す必要もない。空気を残す日の35mmと、切り取る日の50mmという役割分担にすれば、どちらの購入も間違いにならない。新品506,000円のズミクロン50か、実査で確認したメルカリのズミルックスASPH美品350,000円あたり(型式要確認)が入口になる。
アポズミ貯金中の人は、待て。 憧れを否定する気はない。ただ、振り込む前に一度だけ、ストア価格158万円で「一つの完璧」を買うのか、106万円で「二つの性格+おつり52万円」を買うのかを、上の価格表を見ながら考えてほしい。それでもアポズミなら、それは分かって選んだ150万円だから、いい買い物になるはずだ。急ぎたくなったら、キタムラの中古729,200円〜という道も実在する。
八枚玉にロマンを感じる人は、周八枚を買え。オリジナルは急ぐな。 新品171,000円・保証3年の周八枚と、平均470,671円で目利きの要るオリジナル。写りの体験が欲しいのか、1958年からの実物が欲しいのかで答えは割れるが、後者はいつでも買える相場ではない代わりに、逃げもしない。まず周八枚で八枚玉の世界を日常にして、それでもオリジナルへの熱が消えなければ、そのとき貯金を始めても遅くない。
| 誰のためか | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 最初の一本を決める人 | 50mmを買え | ズミクロンM50新品506,000円が現実解。環境込みで撮りたい自覚があるなら35mmでいい |
| 35mmがしっくり来ていない人 | 50mmを買い足せ | 腕ではなく画角の性格。2本の役割分担はM型の素直な使い方 |
| アポズミ貯金中の人 | 待て | ストア価格158万円=一つの完璧か、106万円で二つの性格+おつり52万円か。中古729,200円〜も実在 |
| 八枚玉ロマン層 | 周八枚を買え。オリジナルは急ぐな | 新品171,000円・3年保証 vs 平均470,671円+目利き。写り体験なら前者で足りる |
それでも最後は、写りの好みだ
Redditに「あなたは50の人か、35の人かのどちらかだ」という言い回しがある。乱暴なようで、案外これが真理に近いと思う。35mmは目の前の世界を閉じ込める画角で、50mmは目の前の世界を切り取る画角だ(ゆるカメライフの対比を借りた)。どちらの遊びに心が動くかは、スペック表からは出てこない。
僕の答えは50mmだ。でもそれは、僕の目がそうできているという話で、あなたの目の話ではない。ちなみに35と50の間には43mmという画角もあって、Q3 43の記事で書いたように、ライカ自身が「第二の標準」を名乗らせている。画角の正解は一つではない、ということだ。
だから最後の手順はこうだ。35mmの作例と50mmの作例を、機材名を伏せる勢いでたくさん眺める。好きだと感じた側が、あなたの答えだ。通説でも、僕の結論でもなく。
よくある質問
ライカのM型レンズ、最初の一本は35mmと50mmどちらがいいですか
僕の答えは50mmだ。35mmは何を入れて何を外すかの計算が要る画角で、50mmは目に留まった場所を切り取ることに集中できる。入口の現実解はズミクロンM 50mm f/2(新品506,000円・2026年7月時点)。ただし、街の空気ごと写し込みたい人には35mmが合う。通説ではなく、作例を見て好きだと感じた方があなたの答えでいい。
アポ・ズミクロンM 50mm f/2は買うべきですか
急がなくていい、が僕の答えだ。新品はライカストアで1,584,000円、キタムラで1,504,800円(2026年7月時点)。同じ予算を組むなら、ズミルックスM 50mm f/1.4 ASPH(891,000円)と周八枚(171,000円)の2本を買っても、ストア価格比で52万円のおつりが来る。一つの完璧を取るか、性格の違う二つを取るかの選択で、どちらも間違いではない。中古729,200円からという道もある。
周八枚とオリジナルの八枚玉は何が違いますか
周八枚は中国の新興レンズメーカーLight Lens Labが、初代ズミクロン35mm F2(通称八枚玉・1958年から1969年に生産)に非常に近い性能を目指して作ったレプリカだ。新品171,000円で、正規代理店の焦点工房経由なら自然故障3年保証が付く。オリジナルはヤフオクの落札平均が470,671円、マップカメラの在庫実査では678,000円からで、クモリや整備歴の見極めが要る(2026年7月時点)。
ズミルックスM 50mmの現行ASPHと復刻11714はどちらがいいですか
現行ASPH(11728)は新品891,000円(キタムラ846,450円・納期未定)で、近接0.45m対応と11枚の絞り羽根が特徴。復刻の11714は非ASPHで新品700,150円、キタムラが「圧倒的に美しいボケ味が魅力の銘玉が再登場」と書くクラシック描写側だ。現代的な使い勝手なら現行、オールドらしい柔らかさなら復刻で、差額はキタムラ実勢で約15万円(2026年7月時点)。僕はどちらも所有していないので、公表スペックと価格からの整理だ。
50mmでいちばん現実的な最初の一本はどれですか
ズミクロンM 50mm f/2だ。新品506,000円(2026年7月時点)で、ライカ公式も「絞り開放からきわめてコントラストが高く」「絞り開放でも十分美しく撮影できます」と書く。僕自身がM11で常用しているレンズで、この記事の50mm推しはこの一本の体験に立っている。予算を上げられるなら、ズミルックスM 50mm f/1.4 ASPH(891,000円)が次の候補になる。
価格・在庫は2026年7月28日時点のライカストア・カメラのキタムラ・焦点工房・マップカメラ・メルカリ・ヤフオク実査に基づく。ライカは価格改定が続いているので、購入前に必ず最新価格を確認してほしい。アポズミクロン、ズミルックス50、周八枚の3本を僕は所有していないため、本記事に描写の実体験評価は含まない。描写は各自の目で、作例と実機で確かめてほしい。