Amazonのウィッシュリストに、ずっと入れっぱなしの1本がある。

水月雨(MOONDROP)Old Fashioned。——3.5mm版が¥4,680〜¥5,200、USB-C DSPマイク付き版が約¥5,940(いずれも2026年4月時点)の、オンイヤー型・オープンバック・有線ヘッドホン。3.5mm版が2026年2月19日、USB-C版が2026年4月22日の発売だ。

気になっている。茶色のイヤーパッド、プラ筐体に薄い金属のヘッドバンド、どこか昭和の喫茶店に置いてあったような佇まい。水月雨はIEM(カナル型イヤホン)のメーカーという印象が強いが、Old Fashionedはブランドの"外し玉"で、レトロなヘッドホンに振り切っている。

ただ、わたくしの習慣として、¥5,000のガジェットでも「なんとなく好き」では買わない。——粗を全部並べてから、それでもまだ欲しいかを問い直す 。今回はそれを、そのまま記事にする。

¥5,000のレトロ・オープンバック。粗を並べても、まだ欲しいか。


まず事実——Old Fashionedの正体

項目 内容
型式 オンイヤー型・オープンバック有線ヘッドホン
ドライバ 40mmダイナミック/3層剛柔複合振動板
インピーダンス/感度 32Ω/109dB/Vrms
重量 約80g
ケーブル 着脱式・0.78mm 2pin/3.5mm(USB-C版はDSP内蔵ケーブル+マイク)
チューニング DF-HRTF(Diffuse Field HRTF)準拠
発売 3.5mm版 2026年2月19日/USB-C DSPマイク付き版 2026年4月22日
日本実売 3.5mm版 4,680〜5,200円/USB-C版 約5,940円

※価格は2026年4月時点のe☆イヤホン、Amazon JP、MOONDROP公式の情報に基づく。

これはIEM(カナル型イヤホン)ではない 。水月雨はAria 2、Kato、Blessing 3といった定評のあるIEMで日本でも知られるメーカーだが、Old Fashionedはそこから外れた別カテゴリ——耳に乗せるだけのオープンバック・ヘッドホンだ。40mmドライバを、耳を密閉せずに乗せる。背面は開いている。

つまり、音は外に漏れる。外から音も入る。

この物理構造が、このあと並べる粗のほとんどの根っこになる。


粗を並べる——この製品の欠点、全部書く

提灯記事にするつもりはない。¥5,000のヘッドホンに¥10万機と同じ物差しを当てるのもフェアではない。——ただ、「気になる」という感情のまま財布を開きたくないので、欠点だけを先に並べる。

わたくしはOld Fashionedを試聴していない。以下は公開レビュー(ヲチモノ、Headfonia、Pragmatic Audio、Darko Audio、価格.com、note等)の記述を横断して整理したものだ。

1. 音漏れが盛大

日本語・英語のレビューで驚くほど一致している。「駄々洩れ」「そこらのオープンバック型よりも漏れる」。——室内専用、できれば一人で聴く前提 のヘッドホンである。電車、カフェ、オフィス、図書館。全部不可だ。

2. サブベースが出ない

60〜100Hz以下がロールオフする、と複数レビューが報告している。Headfoniaは「サブベースは概ね100Hz以下でロールオフ、オープン・オンイヤーで耳を密閉できない物理制約」と明記した。ドラムの沈み込み・EDMの重低音・映画の爆発音——この方向は最初から期待しない設計だ。中域(ボーカル帯)が中心で、そこは評価が高い。

3. 高域の解像感にも限界

Pragmatic Audio、Headfoniaの両方が「高域はロールオフしており、シンバルやピアノのグリッサンドなど繊細な情報が沈む」と指摘する。刺さらないので長時間疲れない、という裏返しの美点はある。——中域以外は両端が削られた、控えめな音 、と読むのが正しい。

4. 付属ケーブルが貧弱

日本の一次レビュー(ヲチモノ、note mockingbird氏)も海外Head-Fiも、ここは一致している。「stockケーブルは細く頼りない」「交換前提」。Linsoulが別売り純正ケーブルを用意している事実そのものが傍証だ。

¥5,000で買っても、リケーブルで+¥2,000〜5,000が事実上の追加投資。合計¥7,000〜¥10,000レンジ。

この隠れコストは最初に見積もっておく必要がある。

5. プラ筐体・フォームパッドの経年劣化

複数レビューで「チャチ」「安っぽい」との一次コメント。¥5,000のヘッドホンに堅牢性を求めるのは筋違いだが、茶色のスポンジ製イヤーパッドは数年でボロボロになる素材だ。3〜5年後には交換前提 と読んでおくのが現実的だ。

6. オンイヤーの装着感は個人差が大きい

「乗せてるだけの感覚」との日本語レビューがある。軽量80g・側圧は弱めという評価が多数派だが、日本Amazonレビューには側圧を気にする声もある。眼鏡との併用、頭の形——ここは店頭試聴できるなら絶対にした方がいい。e☆イヤホン各店に実機が置かれている。

7. Darko Audioの「レビュー不要」コメント

海外の辛口媒体Darko Audioは、Old Fashionedの記事タイトルに "review not necessary"(レビューは不要)と書いた。悪口ではない。「$25のヘッドホンなら、買って1週間試して、合わなければ返品すればいい。レビュアーの言葉より自分の耳のほうが速い」 という主旨だ。金銭的リスクが極小だからこそのコメントで、Old Fashionedはこの価格帯で「買ってから判断する」前提の製品として扱われている、ということでもある。

以上7点。粗は山ほどある。


同価格帯の競合——¥5,000前後でOld Fashionedを選ぶ意味はあるか

機種 日本実売(2026年4月時点) 立ち位置
FiiO EH11 (BT・LDAC・アプリEQ) 海外定価約$30/日本は未正規流通、フリマで¥7,700前後 Bluetooth・パラEQ付き。stock音質で勝るとの比較あり。ただし日本での正規入手性に難
Koss Porta Pro (有線オンイヤー) 約¥7,780〜 40年続く定番。低音の量感で圧倒
Koss KPH40 Utility 約¥7,600〜8,400 最近接の競合。リケーブル仕様でOld Fashionedが有利、音の安定でKossが有利
Koss KSC75 (耳掛け) 約¥3,000〜3,500 より明るい。予算半分でOld Fashioned以上の情報量を出すと定評

※価格は2026年4月時点の価格.com・Amazon JP・主要ショップの実売情報に基づく。Kossの日本実売は円安の影響を受けやすく、海外情報より高めに推移している点は頭に入れておきたい。

冷静に読むと、純粋な音質勝負では Old Fashioned が優位を取りにくい 。FiiO EH11は海外で同価格帯にBluetooth・LDAC・パラメトリックEQという機能密度を積む。Koss Porta Proは40年のロングセラー。KSC75は予算半分で情報量が多い。

音質・機能・コスパ——どの軸を取っても、Old Fashionedは"一番"にはならない。

では、何で選ぶのか。——ここからが本題だ。


それでも惹かれる理由

粗を並べて、競合と比べて、それでもウィッシュリストから消せない。動機を嘘をつかずに書く。

一つ、見た目がいい 。茶色のフォームパッド、プラ筐体、薄い金属ヘッドバンド。水月雨がアニメ調や緻密チューニングの王道から外して投げてきた"外し玉"——そのコンセプトごと面白い。「ガジェットは見た目の気分を引き上げるもの」という価値を、わたくしは否定しない。

二つ、リケーブルで遊べる土俵がある 。0.78mm 2pinの着脱式はIEM互換の汎用規格。純正ケーブルが貧弱という欠点は、裏返せば「リケーブルで音が明確に変わる余地がある」ということでもある。本体+ケーブルで合計¥7,000〜¥10,000 。¥10万機の「正解のない微調整」とは違う、¥1万以下の遊び場としては手頃だ。

三つ、室内のボーカル聴き専用機として完結する 。既に有線・無線の主力機はある。ノイキャンも別のヘッドホンが担っている。——Old Fashionedが埋めるのは、家の中で何かをしながら、耳を圧迫せずに、ボーカルを近く聴く、という枠 だ。夜、リビングで本を読みながら。朝、コーヒーを淹れながら。家族の声も聞こえる状態で、音楽を薄く流す。この用途なら、サブベースが出なくても、高域が伸びなくても、音漏れが盛大でも、全部問題にならない。むしろ美点になる。

¥5,000は、この用途への"入場料"として妥当か。——わたくしの答えは、妥当だ。


¥5,000のチープ製品の判定軸

¥10万のカメラや¥5万のヘッドホンを検討するときの物差しを、¥5,000にそのまま当てはめると、必ず「買うな」に着地する。音質・機能・作り、全部で勝てない。だから判定軸を変える。

¥5,000クラスには、¥5,000クラスの問い方がある。——わたくしは次の三つで決める。

一つ、その¥5,000で、生活の中に新しい"一枠"が生まれるか 。既存の機材と用途が被るなら見送り。被らない小さな枠を埋めるなら候補。

二つ、追加投資込みで¥1万以内に収まるか 。収まるなら「¥1万の遊び道具」として成立する。超えるなら別のカテゴリを検討したほうがいい。

三つ、外したときの損が小さいか 。¥5,000は合わなくてもメルカリで半値は戻る価格帯だ。この"気軽さ"そのものが、¥5,000クラスの最大の効用である。

Old Fashionedをこの三つに通す。——家の「ながら聴き」ボーカル専用機という枠 はわたくしの既存機材と被らない。リケーブル込みでも¥8,000〜¥10,000でギリギリ収まる。純正のまま使い倒すなら¥5,000で完結。合わなくても、音漏れで外で使えないと発売前から確定情報で分かっているので、「騙された」と感じる余地も小さい。


わたくしの判定

買う。

ただし、条件付きだ。

一つ、外で使わない 。音漏れは物理仕様。家の中でだけ使う。

二つ、まずは純正ケーブルのまま使い倒す 。stock状態で不満が明確になってから、どの帯域を強化したいかを決めてからケーブルを選ぶ。順番を逆にすると、¥5,000のヘッドホンのはずが¥15,000の沼になる。

三つ、低音で気持ちよくなる期待を持たない 。ボーカル・アコースティック・ジャズ寄りの音源に用途を固定する。EDMやヒップホップはこれ以外で聴く。

四つ、可能なら店頭で装着感を確認する 。e☆イヤホン各店で試聴可能。オンイヤーは個人差が激しく、通販だけで即決しない。

この四つを守れるなら、¥5,000のレトロ・オープンバックは、わたくしの"ボーカル・ながら聴き枠"を埋める投資として成立する。


誰に勧めて、誰に勧めないか

買ってよさそうな人 ——家の中で音楽を薄く流す時間が多い人。側圧の強いヘッドホンが苦手な人。眼鏡併用で疲れやすい人。ボーカル主体の音源が中心の人。レトロな見た目が刺さる人。リケーブルも含めて手を入れたい人。

買わない方がいい人 ——外で使いたい人(音漏れで完全に不可)。低音の量感を求める人。解像感・空間表現を重視する人。密閉感・遮音性が欲しい人。既にKoss Porta Pro/KPH40/KSC75を持っていて音傾向が被る人。プラの作りに耐えられない人。

この分岐に「外で使いたい」「低音が欲しい」が含まれるなら、迷わず他機種を見た方がいい。¥1万台の密閉型、Kossの定番——選択肢はいくらでもある。

Old Fashionedは、"見た目と気分に¥5,000払える静かな暮らしの人"のための製品である。


注記

  • 価格・発売日・仕様は2026年4月時点のMOONDROP公式(moondroplab.com)、e☆イヤホン、Amazon JP、価格.comの情報に基づく。3.5mm版は4,680〜5,200円、USB-C DSPマイク付き版は約5,940円。
  • 記事末の購入リンクはUSB-C DSPマイク付き版(約¥5,940) を指す。3.5mm版はe☆イヤホン、Amazon JP等で別途取り扱いがある。リケーブル前提で遊びたいなら3.5mm版、DSP内蔵で即戦力に使いたいならUSB-C版、という棲み分けになる。
  • 音質評価は公開レビュー(ヲチモノ、Headfonia、Pragmatic Audio、Darko Audio、PHILE WEB たにみく連載、note mockingbird氏、価格.com、audioreviews.org、Head-Fi.org)の記述を横断して整理したものであり、わたくし自身はOld Fashionedを試聴していない 。本記事での評価は購入判断のための論理整理であって、個人の試聴印象ではない。
  • DF-HRTFチューニング、サブベース100Hz以下ロールオフ、高域ロールオフの技術記述は公開レビュー記事の記述を引用している。個体差・測定条件によって実測値は変動し得る。
  • 競合機(FiiO EH11、Koss Porta Pro、Koss KPH40 Utility、Koss KSC75)の日本実売価格は2026年4月時点の主要ショップ・価格比較サイトの情報に基づく。FiiO EH11は2026年4月時点で日本の正規流通に乗っていないとの情報があり、海外通販・フリマ経由の入手が中心。為替・在庫により変動する。
  • 店頭試聴はe☆イヤホン各店・フジヤエービック・AVACで可能との情報があるが、実機配備は店舗により異なる。訪問前に各店舗の在庫を確認することを勧める。
  • 本記事は購入を推奨するものではない。¥5,000のヘッドホンであっても、実機の装着感と音の方向性があなたに合うかを確かめてから 判断してほしい。