Zen Gadget で「買うな」と書き続けていると、ときどき自分でも窮屈になる瞬間がある。

10万円のカメラを諦めろ、5万円の指輪を諦めろ、4万円のヘッドホンを諦めろ——それが本誌の仕事だ。道具に依存するな、過剰投資するな、5年後に手元に残るかを考えろ。そう繰り返している。

だからこそ、今日は逆を書く。

1万円以下で、罪悪感なく散財していい道具。

 

その枠に、Anker のモバイルバッテリー2種が、見事にはまる。

  • Anker Power Bank Fusion(A1637) — コンセント一体型・30W・10,000mAh
  • Anker Nano Power Bank(A1638) — 45W出力・10,000mAh・巻取り式USB-Cケーブル一体型

どちらも ¥7,000 前後で、用途が違う。わたくしは研修講師で、出張の数がそこそこ多い。新幹線、ホテル、カフェ、会議室——1日のうち4〜5箇所で充電器を抜き差しする人間だ。この2台を両方触って、使い分けの境界線が見えた。

きっかけは backspace.fm だ。ホストのドリキンさんが旅行中の回(2026年1月頃)で、Anker のコンセント一体型を「これ、旅に持っていく充電器の最適解だ」と繰り返していた。プロ散財家として知られるあの人が、¥7,000 クラスの充電器を、その価格帯でわざわざ褒める。その意味を、今日は解きほぐす。


公式スペック(A1637 vs A1638)

まず2モデルの違いを、公式情報で並べる。

項目 Anker Power Bank Fusion(A1637) Anker Nano Power Bank 45W(A1638)
型番 A1637 A1638
容量 10,000mAh 10,000mAh
最大出力 30W(PD) 45W(PD)
ケーブル USB-C 内蔵ケーブル 巻取り式 USB-C ケーブル(7〜70cm・8段階)
コンセント 折りたたみプラグ内蔵 なし
ポート USB-C 内蔵ケーブル+ポート USB-C 内蔵ケーブル+ポート
重量 約300g前後 約230g
カラー ブラック ブラック / ホワイト / ミントブルー
発売 継続販売中 2025年9月
価格帯 約¥6,000前後 約¥6,990

(出典: ankerjapan.com / Anker公式各製品ページ、2026年4月時点)


コンセント一体型(A1637 Fusion)の本当の価値

モバイルバッテリーも、USB-C充電器も、すでに何台も持っている人間に、Fusion(A1637)はどう刺さるのか。

Anker の定番、PowerCore 10000(¥2,990 / 10000mAh / 最大12W出力)と比べてみる。容量は同じ 10,000mAh。それでも出張中、わたくしがカバンに入れているのは Fusion の方になった。

理由は一つしかない。

 

モバイルバッテリーは、充電するのを忘れる道具だからだ。

 

PowerCore 10000 を持っていた頃、わたくしは何度も新幹線の中で絶望した。カバンから取り出した瞬間に、残量ゼロ。前夜、ホテルで充電するのを忘れていた。10000mAh の大容量は、充電し忘れたら、ただの重い文鎮だ。

Fusion(A1637)は違う。コンセントに挿した瞬間に、本体も充電される。ホテルで iPhone を充電するために壁に挿す。その行為自体が、翌日の出先用の電力を貯めている。「充電器として使う」と「バッテリーを補充する」が、同じ動作になる。

これが Fusion 一台にまとまる意味だ。運用から「充電を忘れる」というエラーが消える。

出張族にとって、この設計思想は大きい。ドリキンさんが旅行中に褒めていたのも、おそらくここだ。荷造りで「モバイルバッテリーの充電、した?」と自問する10秒が、人生から消える。


巻取り式45W(A1638 Nano)が生んだもう一つの答え

一方、2025年9月に Anker が投入した Nano Power Bank(A1638)は、別の設計哲学を持つ。

こちらはコンセントを持たない。代わりに、本体から 7〜70cm で伸縮する巻取り式 USB-C ケーブルが内蔵されている。出力は 45W——これが重要だ。

45W は、MacBook Air を充電できる最低ラインだ。30W モデルでは、MacBook Air を「動かしながら」充電するには出力が足りず、バッテリーが少しずつ減る。45W なら、MacBook Air をフル稼働させながら、緩やかにバッテリーが回復する実用域に入る。

さらに、巻取り式ケーブルが生活を変える。

カバンの中で絡まる USB-C ケーブルが消える。「ケーブル、どこに入れたっけ?」の10秒が消える。カフェでカバンから取り出した瞬間に、そのまま iPhone や MacBook に繋げる。——この設計は、「物を減らす」という方向での散財になる。

重量は約230g。Fusion(A1637)より70g 軽い。カラーバリエーションも3色ある(黒・白・ミント)。

Fusion が「忘れるエラー」を消すなら、Nano 45W は「ケーブル探しの手間」を消す。刺さる層が微妙に違う。

 

Fusion は出張族のための道具。Nano 45W は、MacBook Air ユーザーと「モノを減らしたい人」のための道具。

 


2台の住み分けをさらに詰める

どちらも買う価値はあるが、1台だけ選ぶなら、用途で分かれる。

A1637 Fusion を選ぶべき人

  • ホテル泊まりの出張が多い
  • 「充電を忘れる」失敗を繰り返している
  • カバンに充電器とバッテリーを別々に入れるのが嫌
  • 変換プラグ1個で海外にも持ち出したい

A1638 Nano 45W を選ぶべき人

  • MacBook Air / Pro 13インチを外で充電したい
  • iPad Pro を PD 急速充電で回したい
  • ケーブルを探す時間を人生から消したい
  • 軽さ(230g)が他の何より大事

iPhone だけを充電する人間には、どちらも「やや過剰」だ。iPhone 17 / 16 の PD 急速充電は 20〜27W で上限に達する。45W も 30W も、スマホだけの用途では出力を使い切れない。

ただし、Fusion(A1637)の「コンセント一体型」という設計は、30W 出力でも iPhone ユーザーに十分刺さる。出力ではなく、運用の簡潔さに ¥6,000 を払う買い物になる。


1万円以下の散財枠という思想

Zen Gadget の編集方針は「過剰投資を避ける」だが、過剰に節約するのも違う。

¥7,000 のモバイルバッテリーは、「散財」と呼ぶにはあまりに微細な金額だ。だが、その ¥7,000 で「充電を忘れる」「ケーブルを探す」という毎日発生する小さな摩擦が消える。出張族にとって、この摩擦の解消は、年365日で返ってくる時間に換算できる。

1回の摩擦を仮に「10秒のストレス」と数えるなら、1日2回 × 365日で 年間2時間強。¥7,000を払って、年2時間の認知的余白を買い戻す計算になる。時給換算すれば、3,500円/時間以上の価値がある。

 

¥7,000は、高いカメラや時計を買う「散財」ではない。毎日の認知負荷を減らす「投資」だ。

 


わたくしの判定

出張族・旅行族・「充電忘れ」を繰り返している人 → A1637 Fusion を買う

¥6,000前後。コンセント一体型が生む「壁に挿したら自動的に本体も充電される」という運用思想は、出張・旅行の頻度が高い人間にとって明確な時間短縮になる。30W 出力は iPhone 急速充電・iPad 基本充電・MacBook Air の補充電に十分。壁に挿したまま変換プラグを添えれば、海外旅行にも対応する。わたくしは年間20回程度の出張があるが、Fusion を1年使って、モバイルバッテリーの残量ゼロで困った日は1回もない。

MacBook Air ユーザー・ケーブルを減らしたい人 → A1638 Nano 45W を買う

¥6,990。45W 出力は MacBook Air を外で動かしながら充電できる最小ラインで、巻取り式ケーブルはカバンの中の「ケーブル地獄」を一掃する。230g は現行の 10,000mAh / 45W クラスで最軽量級。MacBook Air を毎日持ち歩く人、カフェで仕事する人、カバンの中身を整理したい人には、Fusion より刺さる。

家から出ない・既に GaN 充電器と10000mAhバッテリーを両方持っている人 → 買うな

在宅中心の生活で、出張も旅行も年数回という人間には、どちらも不要だ。既存の GaN 充電器 + PowerCore 10000 の組み合わせで、家での充電は完結している。足りているものを買い替える理由にはならない。次の買い替えタイミング(既存機器の故障時・長旅の直前)で、そのときの最新モデルを検討すればいい。道具は、必要になってから買うのが一番安い。


本記事の価格・スペックは2026年4月時点の Anker Japan 公式情報(ankerjapan.com)に基づきます。販売価格は Anker 公式およびAmazon・楽天等の実売で変動があります。A1638(Nano Power Bank 45W)は2025年9月発売、A1637(Power Bank Fusion)は継続販売中です。backspace.fm 内での言及は2026年1月頃の放送を参照。対応機器の充電速度は USB PD プロトコル・ケーブル・ファームウェアにより変動します。海外使用時はプラグ形状の変換アダプターが別途必要です。