毎朝、スターバックスでラテのトールを頼む。税込¥500。

1日¥500 × 365日 = ¥182,500

——これが、毎日スタバに行く人間の年間コストだ。通勤ついでの¥500は小さい。1年経つと、車の頭金くらいになっている。

わたくしは以前、スターバックスで4年半バリスタをやっていた。だから中の作業が全部見える。エスプレッソマシンを押して、スチームワンドでミルクを泡立てて、ピッチャーで注いで、ラテアートを描く——その一連のプロセスを、家で再現できる機械がある。

De'Longhi ラ・スペシャリスタ・プレスティージオ EC9355J-M。デロンギ公式 ¥168,000、Amazon 実売 ¥100,000前後

本体¥100,000 vs スタバ年¥182,500——この時点で、経済は逆転している。ただし、この話には 「覚悟」 という大きな前提がある。

 


EC9355J-M 公式スペック

項目 仕様
グラインダー コーン式・8段階粒度調整
豆ホッパー容量 200g
ポンプ圧 19気圧
給水タンク容量 2.0L
スチームワンド 手動・ミルクフロッサー付き
タンピング スマートタンピングステーション(半自動)
本体寸法 幅385×奥行370×高さ450mm
本体重量 13.5kg
消費電力 1450W
メーカー希望小売価格 ¥168,000(デロンギ公式)

(出典: delonghi.com/ja-jp EC9355J-M製品ページ、2022年度グッドデザイン賞受賞)


この機械にできること

一杯のラテを淹れるために必要な工程は、3つある。豆を挽く・エスプレッソを抽出する・ミルクを泡立てる。

EC9355J-Mは、この3つを全部一台でやる。

グラインダーは本体内蔵。 豆ホッパーに200gまで入る。8段階の粒度調整ダイヤルで、浅煎りなら細かく、深煎りなら粗めに。挽きたての豆がそのままフィルターホルダーに落ちる。

スマートタンピングステーションで、タンピングが半自動。 通常のセミオートマシンは、フィルターに挽いた豆を入れたあと、タンパーで押し固める工程(タンピング)が必要だ。これが難しい。圧が弱いと薄く、強いと詰まり、斜めになるとチャネリングが起きる。——この機械は、レバーを降ろすだけで均一なタンピングが完了する。

ポンプ圧19気圧。 エスプレッソの抽出に必要な圧を、一般家庭用の電源で再現する。抽出されるのは、上にクレマ(黄金色の泡)が乗った、本物のエスプレッソだ。

スチームワンドは手動。 ミルクピッチャーに牛乳を入れて、ノズルを沈め、蒸気バルブをひねる。ここだけは人間の手でやる。だからラテアートも、マキアートも、カプチーノも、意図した通りに作れる。

全自動マシン(マグニフィカ系)との決定的な違いは、この「手動で淹れる余白」が残されていることだ。ボタン一発でラテが出てくる機械ではない。——自分で淹れる機械だ。

 


掃除の実態——正直に書く

ここから、この記事で一番書きたかった章に入る。

エスプレッソマシンを家に置くということは、毎日掃除をするということだ。これを誤魔化している記事が多すぎる。わたくしは正直に書く。

毎日やること(一杯淹れるたびに)

  • フィルターホルダーのコーヒー粉を捨てる(ノックボックスに叩き落とす)
  • フィルターを水洗いして軽く拭く
  • スチームワンドを拭く(ミルク使用直後に必ず。固まると取れない)
  • スチームワンドの空打ち(ワンドに残ったミルクを抜く。バリスタが必ずやる動作)
  • ドリップトレイの水を捨てる(抽出のたびに溜まる)

——これが最低限。1回のラテで、抽出2分・掃除1分。一杯のために3分の手間が上乗せされる。

週1でやること

  • フィルターホルダーとフィルターの分解洗浄(コーヒーオイルが詰まる)
  • 豆ホッパーの中を乾拭き(油分が残る)
  • ドリップトレイとカップ受けを外して丸洗い
  • 給水タンクのすすぎ

——週末の朝、15〜20分。

月1でやること

  • グラインダーの清掃(専用ブラシで粉を掻き出す)
  • シャワースクリーンの洗浄(抽出ヘッドの目詰まり対策)
  • パッキンの点検

3〜6ヶ月に1回

  • デスケーリング(石灰除去)——専用の洗浄剤をタンクに入れ、プログラムを走らせる。地域の水道水の硬度で頻度が変わる。東京の水なら4〜6ヶ月、硬水地域は3ヶ月。

 

これを、毎日・毎週・毎月、5年間続ける覚悟があるか。

 

これが問いの全てだ。


スタバ経済比較

掃除の話が重いので、経済の話に戻す。

スタバのラテ(Tall / 店内飲食)は¥500(税込)。 2026年2月18日の価格改定後、スターバックスコーヒージャパン公式メニューで確認済み。

毎日1杯を前提に計算する。

期間 スタバ累計 EC9355J-M 累計(Amazon実売¥100,000 + 豆¥3,000/月)
1年 ¥182,500 ¥100,000 + ¥36,000 = ¥136,000
3年 ¥547,500 ¥100,000 + ¥108,000 = ¥208,000
5年 ¥912,500 ¥100,000 + ¥180,000 = ¥280,000

(豆代:スペシャルティ200gを月1袋¥3,000で計算。デスケーリング剤・牛乳・電気代は含まず。実質はあと年¥15,000〜20,000上乗せ)

5年で ¥632,500の差。車1台の頭金どころか、軽自動車の中古が買える金額だ。

——ここまで読むと、「じゃあ買うしかないな」と思う人がいる。そこが罠だ。

 


覚悟できる人・できない人

掃除の負担を計算に入れる。

1杯あたり3分の掃除 × 365日 = 年間18.25時間。週末の洗浄 × 52週 × 15分 = 年間13時間。月次・四半期を合わせて、年間合計 おおよそ35時間

35時間の労働で、¥632,500を5年で節約する。時給換算で¥3,614。悪くない。

ただし、これは「淡々と続けられる人」の計算だ。

買う覚悟ができる人

  • 朝のルーティンとして、淹れて掃除することに喜びを感じられる人
  • 失敗したエスプレッソ(チャネリング、粒度ミス、タンピング不足)を「次は改善しよう」と思える人
  • スチームワンドの空打ち音が朝の合図として心地よく感じる人
  • 豆を選ぶ、挽く、淹れる、飲むまでの全工程に時間を使いたい人
  • 「道具を育てる」という発想を持てる人

覚悟できない人

  • 忙しい朝、一刻も早く家を出たい人
  • 道具の手入れを「面倒」としか感じない人
  • ミルクのスチーミングを3回失敗して心が折れる人
  • シンクにフィルターホルダーが置きっぱなしになる人
  • 「全自動マシンが欲しい」と一瞬でも思った人

後者は、買ってはいけない。¥100,000が埃をかぶる。2ヶ月後にメルカリに出る。それだけだ。

 

道具は、毎日触る人間にしか応えない。

 

わたくしはスタバで4年半、マシンを毎日洗っていた。開店前の30分、閉店後の1時間、スチームワンドを分解し、グループヘッドを磨き、ミルクフリッジを拭いた。——正直に言う。面倒だった。

ただし、その毎日の掃除を乗り越えた人間だけが、自分の家で本物のラテを淹れる生活を手に入れる。


半自動マシンという選択の意味

最後に、もう一つ書いておく。

全自動マシン(デロンギ マグニフィカ系)を選ばずに、このEC9355J-Mを選ぶ意味は何か。——淹れる過程に時間を使いたいか、使いたくないかの選択だ。

全自動マシンは、ボタン一発でラテが出てくる。タンピングも抽出もスチーミングも自動。掃除は楽だ。ただし、淹れる楽しみはない。機械が淹れる。あなたはカップを受け取る。

EC9355J-Mは違う。粒度を決める。フィルターに入れる。レバーを降ろす。抽出ボタンを押す。ミルクの温度を指で確かめる。スチームワンドを沈める角度を調整する。ピッチャーを回してテクスチャを作る。カップに注ぐ。——9つの判断があなたの手にある。

この9つの判断を、楽しみと取るか、負担と取るか。

 

エスプレッソは道具ではなく、時間の使い方の選択だ。

 


わたくしの判定

毎日スタバに行っている人、掃除の覚悟がある人 → 買う

年間¥182,500を5年続けると¥912,500。EC9355J-MとAmazon実売¥100,000前後 + 豆代で5年¥280,000。差額¥632,500。さらに、毎朝自宅で挽きたての豆、好きな粒度、好きなミルクで淹れられる自由。スタバにない豆を試せる自由。——掃除を淡々と続けられる人にとって、これは完全に正しい買い物だ。5年後にはバリスタの基礎が身についている。お金では買えない副産物だ。

全自動マシンが欲しいと一瞬でも思った人 → 買うな

このマシンは、淹れる過程を楽しむための機械だ。「ボタン一発でラテが出てくる」を求める人には地獄になる。タンピングが甘ければ薄い。粒度が違えば酸っぱい。スチーミングを失敗すればボソボソの泡になる。——この失敗を「次は改善しよう」と思えない人は、半自動を買ってはいけない。デロンギのマグニフィカ系(全自動)を検討するか、あるいはスタバに通い続けるのが正解だ。¥100,000は埃をかぶる前提で買うものではない。

興味はあるが、毎日淹れる生活が想像できない人 → 待つ

まず自宅でドリップコーヒーを毎日淹れる習慣を、3ヶ月続けてほしい。豆を買う、挽く、淹れる、器具を洗う——この最小サイクルを続けられるか。それができる人間だけが、エスプレッソマシンに進む資格がある。カリタやハリオのドリップで挫折する人間が、EC9355J-Mを持っても、結果は見えている。焦らなくていい。スタバは逃げない。¥100,000も逃げない。


本記事の価格・スペックは2026年4月時点のデロンギ公式情報(delonghi.com/ja-jp EC9355J-M製品ページ)およびスターバックスコーヒージャパン公式メニュー(menu.starbucks.co.jp / 2026年2月18日価格改定後)に基づきます。Amazon実売価格は変動があります。メーカー希望小売価格は¥168,000です。