RICOH GR IV、抽選に並ぶ前に。——28mmで街を撮る道具を、もう一度考える。

近所の散歩中に、生垣の葉が逆光で透ける瞬間を GR III で切った一枚だ。——わたくしが今も所有しているGR IIIは、ポケットに入れて毎日持ち歩く「撮ると決めていない日にも撮れる」機材として、生活の一部になっている。この記事は、そのGR III所有者として、GR IVに対して書く記事になる。
6年半、GRは止まっていた。
RICOHがGR IIIを世に出したのは2019年。以来、ファンは新型を待ち続けた。途中、GR IIIx(40mm)という派生モデルはあった。が、「28mmのGR」という本丸は、モデルチェンジを拒むように動かなかった。
そのGRが、2025年9月12日、ついに動いた。
RICOH GR IV。 裏面照射型APS-C CMOS、約2,574万画素。新設計の18.3mm F2.8レンズ(35mm判換算で約28mm)。5軸6段の手ブレ補正。約0.6秒の高速起動。本体のみ約228g。
市場想定価格は195,000円前後。リコーイメージングストアの販売価格は194,800円(税込)。——そして今、この製品は、買いたくても買えない。
6年半ぶりのGRは、何が変わったか
まず、表で整理する。GR III(現行・生産終了)とGR IVの公式スペック対比だ。
| 項目 | GR III | GR IV |
|---|---|---|
| 発売 | 2019年 | 2025年9月12日 |
| センサー | APS-C 約2,424万画素 | APS-C 約2,574万画素(裏面照射型 BSI) |
| レンズ | 18.3mm F2.8 | 18.3mm F2.8(新設計・5群7枚・非球面3枚) |
| 手ブレ補正 | 3軸 4段 | 5軸 6段 |
| 起動時間 | 約0.8秒 | 約0.6秒 |
| AF | ハイブリッド | ハイブリッド(像面位相差+コントラスト) |
| 内蔵メモリ | 約2GB | 約53GB |
| 重量(本体のみ) | 約227g | 約228g |
変わったのはセンサー、レンズ、補正、起動、メモリ。——つまり、ほとんど全部だ。
ただし、変わっていないものもある。焦点距離は28mm。F値はF2.8。ポケットに入るサイズ感。そして「ストリートスナップに特化する」という思想。
GR IVは、GRであることをやめていない。中身を全て入れ替えても、GRであり続けるための設計だ。
「28mm単焦点で街を撮る」という道具
GRというカメラの本質を、一行で書く。
ポケットから出して、起動して、撮る。 それだけを、一番速くやるための道具だ。
起動0.6秒。片手で握れる109×61×33mm。228g。レンズ交換なし、画角選択なし、ズームなし。28mmの単焦点が、ただ固定されている。
わたくしは以前、Leica M11に50mmの単焦点をつけて半年間撮り続けた話を書いた。単焦点で撮るということは、「寄る・引く」を足で解決することだ。画角の限界を知ることで、逆に見えてくるものがある。
GRはその哲学を、もう一歩進める。——28mmという画角の選択だ。
28mmは、目で見た風景に近い。50mmが「切り取る」画角なら、28mmは「受け止める」画角だ。街を歩いて、視界に入ってきた光景を、視界のままフレームに収める。引きすぎでも寄りすぎでもない、人間の視野に一番素直な焦点距離だ。
スナップ写真家の多くが28mmを選んできたのは偶然ではない。ブレッソンのライカは50mmだったが、現代のストリートスナップの主戦場は28mm周辺に移ってきた。街のスピード、人の動き、光と影の関係——これらを逃さず受け止めるには、50mmはやや狭い。
GR IVは、その28mmを、ジャケットの内ポケットに入れて持ち歩ける形にしたカメラだ。
28mm単焦点トライアングル ── GR IV / Leica Q3 / Fujifilm X100VI
28mm単焦点のコンパクトカメラ、という領域には、2026年4月時点で事実上3台のプレイヤーがいる。
| モデル | センサー | レンズ | 重量 | 公式価格 |
|---|---|---|---|---|
| RICOH GR IV | APS-C 約2,574万画素 | 18.3mm F2.8(28mm相当) | 約262g | ¥194,800 |
| Fujifilm X100VI | APS-C 約4,020万画素 | 23mm F2(35mm相当) | 約521g | ¥281,600 |
| Leica Q3 | フルサイズ 約6,030万画素 | Summilux 28mm F1.7 | 約743g | ¥1,133,000 |
※X100VIは正確には35mm相当。ここでは「単焦点APS-Cコンパクト」の対比として並べる。Leica Q3は2026年1月20日に¥99,000の値上げが発表されている。
3台は、同じ「単焦点で街を撮る」という目的に向かって、まったく違う答えを出している。
Leica Q3は、フルサイズ6,030万画素と明るいF1.7で、コンパクトな形にハイエンドの画質を詰め込んだ。価格は約113万円。「妥協しない一台を、ポケットに」 という発想だ。
Fujifilm X100VIは、APS-C 4,020万画素とハイブリッドビューファインダーで、フィルムシミュレーションの色と一眼レフに近い撮影感覚を持ち込んだ。約28万円。「ルックで選ぶカメラ」 だ。フィルム時代の質感を、デジタルで再現する。
RICOH GR IVは、あえて両方とは違う方向に振っている。EVFなし。光学ファインダーなし。F値はF2.8。重量は262g——Q3の1/3、X100VIの1/2。価格は約19万円——Q3の1/6、X100VIの7割。
Q3とX100VIが「所有する喜び」を売るカメラなら、GR IVは「出す・撮る・しまう」だけを売るカメラだ。
——同じ28mmでも、売っているものがまったく違う。
6年半の進化は、何に効いたか
スペック表を並べて「新型だから性能が上がった」と書くのは、レビューとしては雑だ。
GR IVで強化された項目を、実際の撮影シーンでどう効くかに翻訳する。
センサー刷新(BSI 2,574万画素)。 裏面照射型になったことで、高感度ノイズと暗所性能が上がる。GRの主戦場は昼間のスナップだが、夕方以降の街をISO3200〜6400で撮る場面が増えている人には、この差は確実に感じ取れる。
手ブレ補正 3軸4段 → 5軸6段。 これは大きい。28mmの手持ち夜スナップで、シャッタースピードを1/15秒、1/8秒まで落とせる余地が広がる。ISOを上げずに撮る選択肢が増えるということだ。
起動 0.8秒 → 0.6秒。 数字で見ると小さい差だが、GRにとっての0.2秒は、決定的な瞬間を逃すか拾えるかの境界だ。ポケットから出して電源ONにした瞬間、次の0.6秒で撮れる。0.8秒だった頃、その0.2秒の間に消えていた表情がある。
内蔵メモリ 2GB → 53GB。 SDカードを入れ忘れても撮れる、という話ではない。GRをSDカードなしで運用するという新しい使い方が現実になった。旅先でカードを紛失しても、53GB分は手元に残る。
これらは、派手な追加機能ではない。すでにGRにあったものを、一段上に押し上げた改良だ。——6年半の蓄積を、引き算ではなく、密度の増加として投入してきた。
これはGRの設計思想として、正しい方向だ。
抽選販売の加熱を、どう見るか
2026年4月時点、RICOH GR IVは定価で買いたくても買えない状態にある。
リコーイメージングストアは抽選販売。GR SPACE TOKYO(原宿)も抽選販売。家電量販店の予約は受付停止。中古市場では定価を超えるプレミア価格がつき、一部で転売目的の参入が報告されている。
この状態を、冷静に見る必要がある。
「抽選で当てる価値があるか」という問いの前に、まず事実を整理する。
抽選販売は、需要と供給のミスマッチが極端になった時の措置だ。RICOHは供給を意図的に絞っているわけではない。半導体・イメージセンサー周辺のサプライチェーン問題、日本製コンパクトカメラへの海外需要の急増、そして生産規模の限界——これらが重なった結果だ。
問題は、この状態がいつ解消されるかが見えないことだ。
GR IIIも発売から数年間、品薄が続いた。GR IVも同じ経過を辿る可能性は高い。半年〜1年は、定価入手が難しい状態が続くと見ておいた方がいい。
ここで判断が分かれる。
選択肢A: 抽選に毎月エントリーして、当たるまで待つ。数ヶ月〜1年は覚悟する。
選択肢B: 転売市場で25万〜30万円を払って、今すぐ手に入れる。
選択肢C: GR IIIの中古、またはX100VIやQ3に目を移す。
選択肢D: カメラの買い替えを先送りして、スマートフォンで撮り続ける。
わたくしは、Bは勧めない。定価19万円のカメラに30万円を払うのは、プレミアを払っているのではない。待てない自分に罰金を払っているだけだ。
道具を「今すぐ手に入れる」ために払う追加料金は、撮影体験を良くしない。
Aを選ぶか、Cを選ぶか、Dを選ぶか——この3つの判断が、現実的な選択肢だ。
GR IIIユーザーは、買い替えるべきか
これは多くのGRユーザーが今、抱えている問いだ。
答えを先に書く。壊れていないなら、急ぐな。
GR IIIからGR IVへの進化は、本質的に「正当進化」だ。革命ではない。センサーもレンズも手ブレ補正も向上している。が、GR IIIで撮れていた写真が、GR IVで撮れなかったという話ではない。GR IIIで撮れていた写真が、一段クリーンに、一段速く撮れるようになった——その話だ。
買い替えを正当化できる条件は、次のどれかに該当する場合だけだ。
- 夕方以降〜夜の街スナップの比重が高く、高感度とブレ補正で明確な差を感じたい
- 起動速度の0.2秒差が、撮影体験に直接効く使い方をしている
- GR IIIが実際に不調を抱え始めている(センサー汚れ、AF不調など)
- 2台体制(GR III + GR IV、または GR IIIx併用)を組みたい
逆に、「GR IIIでも十分満足している」人が、新型だからという理由で買い替えるのは、Zen Gadgetの立場からは推奨しない。GR IIIは生産終了したが、製品寿命はまだ数年残っている。修理サポートも当面続く。
6年半待った人が「買い替えない」判断をするのは、負けではない。GR IIIを愛し続けるという判断もまた、GRユーザーの正当な態度だ。
わたくしがGR IIIを毎日持ち歩いて気づいた摩擦
GR IIIユーザーとして正直に書く。以下の摩擦は、おそらくGR IVでも完全には解決していない。
- バッテリーの短さ — GR IIIの純正DB-110は満充電で約200枚。朝出て夕方帰るだけの散歩でも、油断すると残量10%まで落ちる。予備バッテリー2個は必須。USB-C充電に対応したのはGR IIIの救いだが、モバイルバッテリーを別途持ち歩く運用になる。
- レンズバリアの砂噛み — 薄型化のために内蔵されたバリアは、鞄の中のホコリや砂を巻き込みやすい。わたくしのGR IIIは2年使った時点で、レンズバリアの開閉音にわずかなザラつきがある。毎回ブロワーで吹く癖がつく。
- イメージセンサーのダスト問題 — APS-Cセンサーがレンズ鏡筒のすぐ奥にあるため、センサーにホコリが乗りやすい。絞りをf/8以降に絞ると黒い点が写る。メーカー有償清掃(¥15,000前後)で除去できるが、半年〜1年に一度のメンテコストが実質的に発生する。
GR IVはシール性・起動速度・手ブレ補正が改善されたが、センサーダストと砂噛みの物理的リスクは設計思想上残り続ける。これを「GRを毎日持ち歩く税金」として受け入れられるかどうかが、GR系との付き合い方を決める。
わたくしの判定
28mmの街スナップを、これから始めたい人 → 買う(抽選に並ぶ価値あり)
19万円で、APS-Cの28mm単焦点、5軸6段、起動0.6秒、228gのカメラが手に入る——この構成は、2026年の市場で他に存在しない。Q3の1/6、X100VIの7割の価格で、同じ「街を撮る道具」のカテゴリ最上位に届く。抽選に数ヶ月通う覚悟があるなら、並ぶ価値がある。
GR IIIで満足している人 → 待つ(買い替えなくていい)
現機が壊れていないなら、急がなくていい。GR IVは正当進化だが、GR IIIで撮れない写真があるわけではない。供給が落ち着き、定価で普通に買えるようになってから判断しても遅くない。——GRは焦って買うカメラではない。
転売価格で買おうとしている人 → 買うな
定価19万円に対して25万〜30万円は、払う価値がない。それは「待てない自分」に払う罰金だ。抽選に落ち続けても、半年〜1年通えば当たる可能性は高い。転売ルートには金を流さない。——業界の健全性のためにも。
「一台だけで完璧を求めたい」人 → Leica Q3 / X100VIを見よ
GR IVはEVFがない。光学ファインダーもない。背面液晶だけで撮るカメラだ。「ファインダーを覗いて撮る体験」や「所有する喜び」を重視するなら、Leica Q3 43(約120万円)かFujifilm X100VI(約28万円)の方向性が合う。GR IVは、道具として薄く・軽く・速いことに全振りしたカメラだ。
本記事の価格・スペックは2026年4月時点のRICOH IMAGING公式発表(news.ricoh-imaging.co.jp)、リコーイメージングストア、Leica Japan公式、FUJIFILMモールの情報に基づきます。抽選販売の状況および実売価格は日々変動するため、購入検討時は必ず各公式ストアで最新情報を確認してください。