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今日のテーマはLeica SL3-Sです。

近所を散歩していて、空を一枚撮った。Leica M11、レンズはズミクロン50mm。夕焼けのグラデーションを、飛行機雲が斜めに横切っていく。その数秒を止めた。それだけの写真だ。誰に見せるあてもない、ただの夕方の空だ。でも僕のライカとの付き合いは、こういう何気ない瞬間を作品の側に引き上げる道具として始まった。撮ろうと身構えてから撮るのではなく、歩いている延長で気づいたら切っている。その距離の近さが、僕がライカを手放せない理由のほとんどを占めている。

だから「ライカで動画を撮る」という一文を、僕は今でも少しだけ受け付けられないところがある。

M型は静止画の道具だ。レンジファインダーを覗いて、シャッターを切って、止めた一瞬を残す。動画という時間軸を持つメディアは、ずっとライカの文法の外にあった。手の中にある古い感覚が、Leica SL3-Sの発表を知ったとき、わずかに身構えた。ライカが動画を本気でやる。その響きに、なんというか、自分の好きだったものが少し遠くへ行くような気配を感じたのだと思う。

ただ、僕がどう思おうと時代は動いている。

backspace.fmのドリキン氏は、Leica SL2-SやSL3、Qシリーズを現場の相棒として使い倒して、写真集を編んで展示まで持っていった。趣味の延長ではなく、仕事と作品の道具としてライカを動かしている人がいる。その姿を見ていると、動画もライカで撮るという選択が、もう奇行ではなく実用の解として成立しつつあるのがわかる。SL3-Sは、その流れに対するライカ本家からの答えだ。2025年1月25日に出て、日本公式価格は¥913,000(税込・ボディ・2026年6月時点)。

この機種を語るときに、まず引っかかるのが画素数だ。

姉妹機のSL3は6030万画素ある。なのにSL3-Sは2460万画素しかない。スペック表を並べて見ると、数字が減っている。半分以下だ。普通の感覚なら、新しいほうが古いほうより数字が大きいはずで、これは退化に見える。僕も最初は一瞬、そう思った。

でもこの引き算は、動画のために意図して行われている。

動画というのは、1秒あたり24枚や30枚、60枚の静止画を連続で書き出し続けるメディアだ。6000万画素の情報を毎秒30回吐き出し続けるのは、センサーの読み出し速度でも、熱でも、データ転送でも、現実的じゃない。だから動画を強化した機種は、画素をあえて抑えて読み出しを速くするという設計を取る。Sony α7S IIIも、Panasonic S1Hも、同じ哲学の上に立っている。SL3-Sの2460万画素・裏面照射のCMOSも、その思想の延長にある。画素を抑えれば1画素あたりの面積が稼げて、高感度が伸びる。SL3-SのISO上限が200000まで届くのは、ここに理由がある。読み出しが速いから、センサー全面を使い切ったオープンゲートの6K/30pが撮れる。

オープンゲートというのは、センサーの3:2の面を丸ごと記録する方式だ。普通の動画はセンサーの一部を切り出して16:9で撮るけれど、全面を残しておけば、後から縦にも横にも切り出せる。YouTubeを撮りながら、同じ素材からInstagramの縦も、TikTokの縦も切り出す。撮影の時点で縦横を決め切らず、編集で決められる。これが今の映像制作では効いてくる。

つまり2460万画素は、足りないのではない。動画のために合わせてある。静止画のディテールを限界まで追い込みたいならSL3を選べばいいし、写真と映像を一台で背負うならSL3-Sになる。減った数字の裏に、ちゃんと設計の意図がある。

ここまで読むと、いいカメラじゃないかと思うかもしれない。実際いいカメラだ。だからこそ、僕は摩擦のほうも正直に書いておきたい。

最初に断っておくと、僕はSL3-Sを所有していない。メインはあくまでM11だ。SL系については、店頭での試写と、ドリキン氏のような使い込んでいる人たちのコンテンツを観察して書いている。手の中で何年も育てた実感ではない。そこは偽らない。そのうえで、Lマウントのこの系統を触っていて、繰り返し報告されているつまずきがいくつかある。

まず重さだ。Summilux-SL 50mm f/1.4は単体で約1kgある。ボディと合わせると約1.9kgになる。M11にズミクロン50mmを付けたときの約900gと比べると、ほぼ2倍だ。一日首から下げて街を歩けば、肩と首に確実に来る。あの、散歩の延長で気づいたら撮っているという軽さは、ここにはない。スナップの機動性で言えば、SL系はM系にはっきり負ける。

EVFのブラックアウトも気になる点として挙がる。576万ドットの有機ELは明るくて、晴れた屋外でもよく見える。ただ連写中のブラックアウトは、Sony α1やCanon R3のような最新機と比べると明確に遅れる。子供の運動会や野鳥のような、追いかけ続ける被写体だと、ファインダーが一瞬黒く落ちて被写体を見失う瞬間がある。

そしてLeica FOTOSの転送だ。これはQ系でも何度も言われてきたことで、SL系でも同じ挙動が起きる。Bluetoothの常時接続からWi-Fiへの切り替えが遅い、原本サイズの転送が失敗する、アプリが再起動を繰り返す。2026年になっても、これは解決されていない。撮った直後にSNSへ上げたいだけなのに、結局SDカードを抜いてiPhoneのカードリーダーに挿したほうが速い、という冗談みたいな運用をしている人が少なくない。¥913,000の機材で、転送だけはカードリーダーに頼る。そういう現実がある。

これらは、ライカを5年や10年のスパンで使う前提で引き受ける摩擦だ。完璧な実用性だけを物差しにするなら、Sony α7S IIIのほうが総合点は高い。半額に近い価格で、AFも低照度もシステムの完成度も上回ってくる。そこは認めるしかない。

それでもSL3-Sを選ぶ理由は、たった一つだと思っている。ライカで撮ることそのものに意味を見出している人が、動画にも踏み込めるようになる。それだけだ。

価格を冷静に置いておく。SL3-Sの¥913,000は、動画強化のフルサイズ機としては最上位のレンジにいる。Sony α7S IIIが約¥418,000、Panasonic S1Hが約¥398,000、Canon EOS R5 Cが約¥498,000、Nikon Z6IIIが約¥398,000。SL3-SはSony α7S IIIのおよそ2倍、S1Hの2.3倍だ。この差額で何を買っているのかと言えば、ライカの画作りと、Lマウントの所有体験と、IP54の信頼性と、レンズの描写設計の思想を買っている。スペックを単独で損得勘定する人にとっては、間違いなく割高だ。

だから誰が買うべきかは、わりとはっきりしている。

ライカで動画を本気で撮りたい人。あるいはすでにSummilux-SLやPanasonic、SIGMAのLレンズを持っていて、動画機能の足りなさに限界を感じていた人。この層にとって、SL3-Sは待っていた答えだ。静止画と動画を一つのマウントで完結できる意味は、資産を積んできた人ほど大きい。¥913,000は、この人たちにとっては正当に成立する金額だ。

逆に、静止画が主で動画は年に数本という人は、いったん待ったほうがいい。この使い方だと¥913,000は重すぎる。静止画ならSL3でいいし、もっと身軽にライカを楽しむならLeica Q3 43のような固定レンズ機のほうが日常の満足度は高い。中古のSL2-Sが約¥500,000で流れているから、そこを挟むのも賢い。動画を撮らない月のほうが多い人が、動画のために50万円近い差額を出すのは、たぶん後で重く感じる。

そして、動画スペックの最適解を探しているだけの人は、SL3-Sを選ぶべきではない。とにかくフルサイズで動画が強い機材が欲しいという動機なら、Sony α7S IIIやCanon EOS R5 C、Panasonic S1Hのどれかを選ぶほうが合理的だ。AFも、バッテリーの持ちも、周辺機材の充実も、RAW収録の選択肢も、向こうが上回る。ライカという名前に対価を払う動機がないなら、差額の40〜50万円はそのまま純粋な損失になる。賢く撮りたいだけなら、ここでライカを選ぶ理由はない。

初めてのフルサイズ機としてこの価格帯を選ぶのも、僕は止めたい。SL3-Sはプロやセカンド機としての性格が強い。免許を取った日にポルシェを買うような無理がある。最初の一台なら、Nikon Z6IIIやSony α7 IVで十分にフルサイズの世界に触れられる。それでもライカに惹かれているなら、まずLeica Q3 43のような固定レンズ機から入るほうがいい。レンズ選びに迷わず、ライカの描写哲学そのものに身を馴染ませてから、SLの世界に進んでも遅くない。

僕はこの記事を書きながら、何度かM11を手に取った。

SL3-Sはすごいカメラだ。画素を減らしたことに理由があって、オープンゲートの6Kはちゃんと未来を向いている。ライカが動画にきちんと答えを出したこと自体に、僕は素直に感心している。それでも僕の手は、結局あの軽いM11に戻る。AFもなく、動画も撮れず、ピントは自分で合わせるしかないあのカメラに。散歩の途中で、空に飛行機雲を見つけて、何も考えずにシャッターを切れるあの距離に。

ライカで撮ることそのものに意味がある。その意味が動画にまで伸びていく人にとって、SL3-Sは正しい一台だ。でも、その意味がまだ静止画の一瞬の中にしかない僕は、たぶんもうしばらく、夕方の空をM11で止め続けるのだと思う。

Leica SL3-Sをカメラのキタムラで見る

価格・スペックは2026年6月時点の公式情報(leica-camera.com/store.leica-camera.jp)および各メーカー公式サイトに基づく。実売価格は為替や在庫で数万円単位で動くため、購入時は販売店で最新価格と納期を確認してほしい。