iPhoneは何年使えるか。僕は年数では答えない
今日のテーマはiPhoneです。
この前の9月、新型が発表された日の夜、壊れてもいないiPhoneの予約ボタンに、僕の指は伸びていた。手元のiPhoneは別にどこも壊れていない。写真もきれいに撮れるし、決済も通る。それでも指が勝手に「予約する」に伸びていた。あの夜の自分を、いまでも少し笑ってしまう。
たぶん多くの人が同じことをやっている。だから「iPhoneって何年使えるんですか」という質問を、僕は本当に何度も受けてきた。3年ですか、5年ですか、それとも今は2年で乗り換えるのが普通なんですか、と。みんな数字がほしい。誰かに「これが正解の年数です」と言ってもらって、安心して財布を開きたい。気持ちはものすごくわかる。あの夜の僕がそうだった。
でも、平均年数を知っても、たぶん何も解決しない。
iPhoneが何年使えるか、という問いには、実はいくつもの「年数」が同時に存在している。Appleが製品環境報告書で想定している使用年数は、約3年。これは環境負荷を計算するための前提値で、別に「3年で捨てろ」という意味ではない。一方、国税庁の減価償却の世界に行くと、携帯電話の設備はもっと長い年数で扱われていて、個人事業の人が少額の資産として4年で経費にしていくのが一般的だったりする。同じ機械なのに、見る人の立場で年数がぜんぜん違う。
じゃあ実際に動く年数はどれくらいかというと、iOSのメジャーアップデートが5年から7年くらい降ってきて、その後セキュリティのアップデートがさらに2年から3年続く。足し算すると、実質的な寿命はだいたい7年から8年になる。これが、いちばん「現実の使える年数」に近い数字だと僕は思っている。
ここで一度立ち止まりたい。7年から8年使える機械を、なぜ僕らは2年で手放そうとするのか。
答えはわりとあっさりしていて、キャリアの残価設定型プログラムが「2年で返す」前提で組まれているからだ。48回払いで契約して、2年あたりで本体を返すと残りの支払いが消える。あの「実質半額」というやつ。あれが世の中の常識をつくった。2年で返却できる人にとっては、確かに最安になることもある。でもそれは契約の都合であって、機械そのものが2年で寿命を迎えるわけじゃない。返さなきゃいけないから返している。それを「買い替え時が来た」と勘違いしているだけ、ということが、けっこうある。
僕がここまで書いて言いたいのは、たぶんこういうことだ。iPhoneは2年で買い替える機械ではない。7年から8年は動くけれど、3年あたりで売るとお金の面でいちばんおいしい、という機械だ。寿命の話と、売り時の話は、まったく別の軸にある。それがごっちゃになっているから、みんな迷う。
売り時の話を先にしてしまう。これは毎年、判で押したように同じパターンが起きる。9月に新型が発表される、その1週間か2週間前が、中古の買取価格のピークになる。そして発表された瞬間から、相場は5%から15%くらいするすると落ちていく。1年使ったiPhoneは新品の60%から70%、2年で45%から55%、3年で25%から35%まで下がる。4年目に入ると、ここから先は急に値が崩れる。
だから僕の中の線引きはもう決まっていて、3年で売る、4年は持たない。これは禁欲しているわけでも、新しもの好きだからでもなくて、ただ4年目以降に相場が落ちるのを何度か見てきたから、そこに置いておくのがもったいないと感じる、というだけの話だ。価値があるうちに、次の誰かの手に渡したい。そういう気持ちのほうが大きい。
ところで、ここで脱線するけれど、売り先によって手取りがけっこう変わる。いちばん楽なのはキャリアの下取りで、手続きはほぼゼロ。ただし安い。マップカメラやにこスマ、イオシス、AppleBuyersみたいな専門の業者に出すと、キャリアより20%から40%くらい高く付くことが多い。たとえば3年使ったiPhone 17 Pro Maxを売るとして、キャリア下取りが4万円なら、専門業者だと5万8千円前後になったりする。1万8千円の差。これを「手間賃」と思える人はキャリアでいいし、1万8千円は1万8千円だと思う人は梱包して送ればいい。僕は後者だけど、これは性格の問題なので押し付けない。
話を戻す。じゃあ自分のiPhoneが今どの位置にいるのか。これは正直、数字の表を眺めても腹に落ちないと思う。だから僕は、自分のiPhoneに三つだけ聞くようにしている。表でなく、自問で。
聞くのは、まずバッテリーのことだ。最大容量は80%を切っているか。設定アプリを開いて、バッテリー、バッテリーの状態と充電、と進むと、最大容量という数字が出てくる。Appleはこの数字が80%を下回ると「劣化」という表示を出す。ここで知っておきたいのは、バッテリーの設計が途中で大きく変わったことだ。iPhone 14より前の機種は、500回フル充電すると80%まで落ちる設計だった。でも15、16、17は、1,000回で80%。倍だ。毎日きっちり1回使い切るヘビーな人でも、1,000回に届くのは約2.7年かかる。実際は1日1回も使い切らない人が多いから、15以降のiPhoneは3年使っても交換いらず、というケースがどんどん増えている。だから、85%以上あるなら焦らなくていい。80%を切ったら、はじめて交換か買い替えかの分かれ道に立つ。
その分かれ道で僕が考えるのは、交換した後にiOSの寿命があと何年残っているか、ということだ。これがいちばん効く。バッテリー交換はAppleの公式で、SEなら1万1,200円、11から14あたりで1万4,800円から1万7,800円、15以降のPro系で最大2万1,800円くらい。もしAppleCare+に入っていて、容量が80%未満なら、これがゼロ円になる。それはさておき、たとえば交換後にまだiOSが3年以上残っているなら、2万円弱を3年4年で割れば年5千円くらいの延命コストで、これは交換したほうが圧倒的に得だ。逆に、残りが1年か2年しかないなら、売却益も込みで買い替えと比べたほうがいい。そしてもうサポートが切れている、あるいは切れる寸前なら、バッテリーを新品にしても延命はできない。電池は元気だけど中身が時代に置いていかれる、という状態になる。
延命できる端末を、なんとなくの雰囲気で買い替えてしまう。これが、いちばん見えにくい損だと思う。設定アプリのバッテリーの数字と、Appleが出している対応機種のリスト。この二つを開くだけで、5分で答えは出る。出るのに、開かないまま新型に飛びついてしまう。あの夜の僕みたいに。
そのバッテリーの数字から、思考はそのまま二つ目へ滑っていく。次のiOSに、自分の機種は乗れるのか。Appleが毎年出す対応機種のリストに、自分のiPhoneの名前があるかどうか。たとえば古いところだと、XSやXS Max、XRは、iOS 18で打ち止めになった。ここを使っている人は、次のiOSの発表でリストから自分の機種が消えていたら、その年が買い替えの年だと思っていい。iPhone 11やSEの第2世代は、いまのiOSにはまだ乗れているけれど、たぶんあと数年で脱落する。あと2年は安全圏、3年目から黄色信号、くらいの位置にいる。
そして最後に残るのが、お金の問いだ。いま売れば、来年売るより2万円以上得をするのか。これは買取業者のオンライン仮査定を取れば、その場でわかる。今の値段と、過去の相場から推定した1年後の値段。その差が2万円未満なら、急いで動く意味は薄い。2万円以上開いているなら、売り時の窓を逃すと、その分だけ損になる。9月の発表前に5万8千円で売れたものが、来年の同じ時期には4万円を切っている、みたいな落差が出るタイミング。それが、たぶん自然な「売り時」であり、結果として「買い替え時」になる。
この三つを並べてみて、全部がノーなら、僕は買い替えない。バッテリーは元気で、次のiOSにも乗れて、急いで売る理由もない。それなら手元のiPhoneは、まだちゃんと仕事をしている。みんな買い替えてるから、2年経ったから、という理由で動くのが、たぶんいちばんもったいない。
ひとつだけイエスなら、僕は待つ。9月の発表まで様子を見て、それまでに仮査定だけ取っておく。8月の終わりにもう一度この三つを自分に聞いて、二つ以上がイエスに変わっていたら、そのとき動く。
二つ以上がイエスなら、買う。ただし、買うと決めたなら売り時は外さない。9月の発表前、1週間か2週間。その窓で旧機種を売って、発表されたら新型を予約する。たったこれだけのことで、手取りが1万円から2万円変わる。買い替えの「何年」より、売却の「2週間」のほうが、財布にはよっぽど効く。
結局、何年使えるか、という問いに数字で答えるのはむずかしい。7年から8年動くのは本当だし、税法の世界では4年だし、お金の面では3年で売るのがいちばんおいしい。全部正しくて、全部違う。だから僕は、自分のiPhoneに三つだけ聞くようにしている。バッテリーは80%を切ったか、次のiOSに乗れるか、いま売れば来年より得か。それだけ見て、買うか、待つか、今のままでいるかを決める。
あの9月の夜、もし指が止まらずにボタンを押していたら、僕は何も困っていない機械を手放して、次の機械をまた2年で手放す道に乗っていたと思う。べつにそれが悪いとは言わない。ただ僕は、いいモノを、価値があるうちに、ちゃんと使いきってから次へ渡したい。自分の身の丈と、手元の機械の体調を見て決めたい。それだけのことだ。
設定アプリを開いて、最大容量の数字を見ればいい。それで答えが出る人は、たぶんもう、出ている。
(2026年6月時点。価格や対応機種はApple公式・国税庁・各買取業者の公開情報に基づく。条件は予告なく変わることがある。)