X-E1を買った2012年、ボディ単体が¥91,000だった。当時まだ会社員で、冬のボーナスを崩して新宿のヨドバシで買った記憶がある。それがX-Eという箱と、わたくしの最初の接点だった。——「手が届くレンジファインダー風APS-C」。その一行だけで、X-Eは14年間、自分の棚の選択肢に残り続けてきた。

ところが、2025年8月に出たX-E5は、その一行を静かに消した。

FUJIFILM X-E5。 第5世代の4,020万画素 APS-C Xトランスセンサー。X-Eシリーズ初の5軸ボディ内手ブレ補正(最大7.0段)。新設計のフィルムシミュレーションダイヤル。レンジファインダースタイルのフラット上面。

そして、ボディ単体で約246,000円(FUJIFILMモール、2026年4月時点)。

旧X-E4のボディ単体発売時価格は約110,000円だった。4年で、2倍以上

 

わたくしは、X-E5の「買うな」判定を出す。

 

理由を、以下で全部書く。


X-E4とX-E5、4年間の変化

まず公式スペックの対比から入る。

項目 X-E4(2021年2月発売) X-E5(2025年8月発売)
センサー APS-C 約2,610万画素(第4世代) APS-C 約4,020万画素(第5世代)
手ブレ補正 なし 5軸ボディ内(最大7.0段)
ISO(拡張) 80〜51200 64〜51200
AF ハイブリッド(顔・瞳検出) ハイブリッド(被写体検出:動物・鳥・車・バイク・飛行機・列車)
フィルムシミュレーション 18種 20種(ダイヤル搭載)
EVF 0.39型 236万ドット 0.39型 236万ドット
動画 4K/30p 6.2K/30p・4K/60p
重量(ボディのみ) 約364g 約445g
サイズ 121.3×72.9×32.7mm 124.9×72.9×39.1mm
発売時ボディ単体価格 約110,000円 約246,000円

変わったもの:センサー、手ブレ補正、AF、フィルムシミュレーションダイヤル、動画、価格。

変わらなかったもの:EVFの解像度。メカシャッターの上限。バッテリー形式(NP-W126S)。——そしてユーザーから見た外観の第一印象。

ここが重要だ。X-E5は「レンジファインダー風の薄くて軽いX-E」という見た目を保ちながら、中身はほぼX-T5とX100VIの混成になった。価格も、そのクラスに合わせて引き上げられた。

X-Eシリーズが4年でやったのは、進化ではない。ポジショニング変更だ。

X-E5は2025年8月発売の新機種で、現時点ではカメラのキタムラでの取扱がありません。Amazonでの購入時は販売元(Amazon.co.jp 販売・発送かどうか)を必ずご確認ください。


価格2倍の進化は、何に効いたのか

¥110,000 → ¥246,000。+¥136,000、およそ2.2倍。

この差額を、X-E5の新機能に振り分けると、こうなる。

センサー 2,610万画素 → 4,020万画素。 X-T5/X100VIと同じ第5世代センサー。解像感は確実に上がるが、APS-Cの4,020万画素はレンズ側の性能も問われる。キットレンズやXFの古い単焦点で撮る人が、等倍鑑賞で恩恵を感じられるかは別の話だ。

5軸ボディ内手ブレ補正(最大7.0段)。 これはX-Eシリーズ初。X-Eの弱点だった「暗所・手持ち動画」をカバーする。ただし、これを最も欲しがる層は、そもそもX-T5かX-H2を選んでいる。X-Eの薄さと引き換えに得た補正機構は、ボディ厚みを32.7mm→39.1mmに増やした。6.4mmの厚みは、レンジファインダー風を選ぶ人には小さくない。

フィルムシミュレーションダイヤル。 X100VIの「撮影体験を演出する」思想がX-Eにも降りてきた。が、これは新機能というより、X-Eから奪われていたものを返してもらったに近い。

AF被写体検出の強化。 動物・鳥・車・バイク・飛行機・列車。——X-Eで撮る被写体として、どれだけの使用頻度があるかを、正直に考えたい。鉄道ファンや野鳥撮影なら、そもそもX-H2SかX-T5を選ぶ。

6.2K動画。 同上。動画主体ならX-H2SかX-S20の方が合う。

整理すると、X-E5の進化は「X-Eらしさ」の強化ではなく、「X-Eを他シリーズと近づける」方向に振られている

 

原点から遠ざかる進化に、+¥136,000を払う意味を、わたくしは見いだせない。

 


X-T5・X100VIとの三つ巴

2026年4月時点のFUJIFILM公式価格(FUJIFILMモール、税込)で並べる。

モデル センサー 手ブレ補正 EVF 重量 ボディ単体価格
X-E5 4,020万画素 第5世代 5軸 7.0段 0.39型 236万ドット 約445g ¥246,000
X-T5 4,020万画素 第5世代 5軸 7.0段 0.5型 369万ドット 約557g ¥275,000
X100VI 4,020万画素 第5世代 5軸 6.0段 ハイブリッド 369万ドット(0.5型) 約521g ¥281,600(レンズ一体)

3台とも、同じセンサー、同じクラスの手ブレ補正を積んでいる。画質の差は、ほぼレンズ側で決まる。

X-T5は、29,000円多く払えば、より大きく見やすいEVF(369万ドット)と、チルト3方向液晶、デュアルSDカードスロット、より本格的な一眼スタイルの操作系が手に入る。本気で写真を撮る装備として完成している。

X100VIは、35,600円多く払えば、23mm F2の銘レンズハイブリッドビューファインダーが付いてくる。フィルムシミュレーションで色遊びをしたい層、ストリートスナップの完成形を求める層が、迷わず選ぶ一台だ。

この2台に挟まれて、X-E5が差し出している「X-E5だけの価値」は何か。

——レンジファインダー風のフラット上面と、レンズ交換式、この2点だ。

それ以外の要素は、X-T5かX100VIの方が、同等以上の体験を提供する。

29,000円差でX-T5。35,600円差でX100VI。 この価格構造の中で、X-E5を選ぶ理由は、極めて限定的になる。


所有すれば気づく、X-Eの小さな摩擦

スペック表には出ない、実機と暮らすと必ず出てくる摩擦を3つ書く。わたくしが過去にX-E1とX-E2を所有し、現在はNikon Zf + 40mm SEを使っている中で、X-Eという系譜の機体に共通して出てきた物理ストレスだ。

一つ目。NP-W126S バッテリーの持ち。 X-E5も先代と同じNP-W126Sを使い続けている。スペック上の撮影可能枚数は約310枚だが、フィルムシミュレーションを切り替えて試写しながら歩くと、半日で目盛りが一つ残る程度まで落ちる。予備バッテリーが¥7,000前後。2個持ちは前提。——海外フォーラムでは「X-T5世代のセンサーで、X-Eの小バッテリーを回すのは無理がある」という指摘が複数上がっている。

二つ目。SDカードスロットがシングル。X-T5はデュアルスロットなのに、X-E5は1枚のみ。RAW+JPEGで旅撮影に出ると、1日の終わりにカード入れ替えの摩擦が必ず発生する。128GBで足りる派と、256GB買い直す派で意見が割れるところだ。

三つ目。フラット上面ゆえの小さな持ち疲れ。グリップの張り出しが浅いX-Eは、XF16-80mmのようなズームを付けると前重心になって、小指が余る。——と予想される。X-E4時代にXF35mm F1.4を付けたまま3時間街を歩いて、右手の付け根が強張った記憶がある。X-E5は+81gで重さが増しているので、同じ症状が出る可能性はある。

[IMAGE_PLACEHOLDER: 指で持ち上げた X-E5 の小指の位置。ボディ底面との隙間が見える俯瞰]

これらは¥246,000を払う前に、店頭で15分触るだけでは見えない類の摩擦だ。X-T5とX100VIを並べて触るなら、バッテリー持ちとスロット数とグリップ形状、この3点を必ず自分の手で確認してほしい。


X-Eシリーズの原点は、どこへ消えたか

X-E1の発売は2012年、価格は約91,000円(ボディ)。X-E2は2013年で約99,750円。X-E3は2017年で約107,460円。X-E4は2021年で約110,000円。

4世代、14年間、X-Eのボディ単体価格は10万円前後で推移してきた。「手が届くレンジファインダー風APS-C」という一貫したポジションがあった。

そしてX-E5で、一気に¥246,000

この価格帯には、X-T5とX100VIがいる。フルサイズのNikon Zf(¥298,100)やソニーα7C II(¥257,400)まで、指呼の距離だ。「手頃で薄いX-E」という原点は、もう存在しない。

富士フイルムの立場は、想像できる。——世界的な需要増、円安、半導体・センサーのコスト上昇、そして「レトロデザイン×高性能」という市場ニーズへの対応。2021年と2025年では、原価構造がまったく違う。

それは理解する。

しかしユーザーから見た時、X-Eシリーズは「安く買えるX」という役割を終えた。この事実は、価格という数字が語っている。

X-E4の中古相場(美品)は2026年4月時点で約90,000〜110,000円。発売から4年以上経過した機体が、当時の販売価格を維持している。——需要があるということだ。新品X-E5の半額以下で、薄くて軽い「本来のX-E」が手に入る。

[IMAGE_PLACEHOLDER: X-E4 の中古美品の箱。伝票に2026年4月の日付]


それでもX-E5が刺さる、狭い層

批判ばかりでは不公平だ。X-E5が明確にハマる層は、確かに存在する。

すでに富士フイルムのXマウントレンズを複数所有していて、X-E4ユーザーで、手ブレ補正と4,020万画素を待っていた人。 この層には、X-E5は正当な買い替え先だ。X-Eの系譜を残しつつ、最新センサーと補正機構を得られる唯一の機体になる。

レンジファインダー風のボディで、レンズを交換しながら撮りたい人。 X100VIは23mm固定レンズ。X-E5はレンズ交換ができる。——この1点は、X100VIに対する明確な優位性だ。XF23mm、XF35mm、XF56mmを付け替えて遊びたいなら、X-E5の方が合う。

X-T5の一眼スタイル(ペンタ部の出っ張り)がどうしても受け付けない人。 上面フラットなレンジファインダー風は、X-Pro系を除くと、X-Eしか選べない。X-Pro4は2026年4月時点で未発表。現行で「フラット上面・レンズ交換・最新センサー」の組み合わせを満たすのは、X-E5のみだ。

この3条件のいずれかに当てはまる人にとっては、X-E5は「高いが、他に代替がない」カメラになる。

逆に言えば、この3条件のどれにも当てはまらない人にとって、X-E5を選ぶ積極的な理由は見つけにくい。


わたくしの判定

すでにX-Eシリーズを使っていて、最新スペックへ乗り換えたい人 → 買う

X-E4ユーザーで、センサー・手ブレ補正・フィルムシミュレーションダイヤルに明確な価値を感じるなら、X-E5は正当な進化だ。XF単焦点レンズ資産を活かせる、レンジファインダー風レンズ交換式は、市場にX-E5しかない。ただし、ボディ厚みが6.4mm増えていることは店頭で必ず確認してほしい。

買う

条件: X-E4ユーザーで、センサー・手ブレ補正・フィルムシミュレーションダイヤルに明確な価値を感じる人。

理由: XF単焦点レンズ資産を活かせる「レンジファインダー風レンズ交換式」は、現行で市場にX-E5しかない。

初めてのミラーレス/他メーカーからの乗り換え候補として見ている人 → 待つ

X-E5の価格帯は、もはや「手軽な入門機」ではない。¥246,000を出すなら、まず店頭でX-T5とX100VIを触ってから戻ってきてほしい。それでもX-E5のフラットなボディと薄さが譲れないなら、買っていい。——が、8割の人は、触った後にX-T5かX100VIを選ぶ。

待つ

条件: 初めてのミラーレス/他メーカーから乗り換え候補としてX-E5を検討している人。

理由: 同価格帯のX-T5・X100VIを店頭で触ってから判断した方が合理的。8割は触った後に他機種を選ぶ。

「X-Eシリーズだから手頃なAPS-Cレンジファインダー風」という印象で見に来た人 → 買うな

その時代は、X-E4で終わった。X-E5は、もうそのX-Eではない。2倍の価格に見合う2倍の体験を、この機体は提供しない。中身は概ねX-T5とX100VIの流用であり、X-E5だけの強い個性は「フラット上面」と「レンズ交換式」の組み合わせだけだ。それに¥136,000の上乗せを払う価値があるかは、冷静に計算した方がいい。

買うな

条件: 「手頃なAPS-Cレンジファインダー風」という旧X-Eの印象でX-E5を見に来た人。

理由: 価格は約2倍だが体験は2倍にならない。中古X-E4(約9〜11万円)かNikon Zfの方が筋が通る。

 

X-Eシリーズの原点を求めるなら、中古のX-E4を探せ。 90,000〜110,000円で、薄くて軽い「本来のX-E」が手に入る。手ブレ補正がないことと、センサーが第4世代であることを受け入れられるなら、X-E4はいまだに現役だ。

 

わたくしはLeica M型を所有していた時期がある。レンジファインダーという形式の、あの静かな撮影体験は、カメラという道具の中でも特別なものだ。X-Eシリーズは、その感覚を「Xマウントの手が届く価格」で提供してくれる、貴重なラインだった。

[IMAGE_PLACEHOLDER: Leica M と X-E1 を並べた棚の俯瞰。二つのレンジファインダー風の系譜]

X-E5は、その貴重なラインの終わりを、静かに告げた機体だと思う。

X-E6に期待する。 もう一度、原点に戻ってくれることを願う。


注記

本記事の価格・スペックは2026年4月時点のFUJIFILM公式(fujifilm.com/jp)、FUJIFILMモール、および各機種の公式発表に基づきます。X-E4・X-E5を含む各機種の実売価格は変動するため、購入検討時は必ず公式ストアと販売店の最新情報を確認してください。中古価格は2026年4月時点の主要中古カメラ店の実勢を参考にした参考値です。