年配のご夫婦が家電量販店のカウンターで「孫にMacBookを買いたい」と相談に来てくれた日のことを覚えている。それが7〜8年前、MacBook Air 11インチ(M系移行前)の時代だ。ご夫婦の予算は「8万円台まで」。当時、その価格帯のMacBookは存在しなかった。——結局iPadに落ち着いたが、あの日「10万円以下のMacBookが欲しい」という日本の家庭が無数にあることを、わたくしはカウンター越しに確信した。

2026年3月、Appleが初めてその価格帯に答えを出した。

世界で最も影響力のあるガジェットレビュアーの一人、MKBHDは、2026年3月の動画でこう言った。

「MacBook Neoは、Apple過去10年で最も破壊的な製品かもしれない」

iPhone Xよりも、3,500ドルのVision Proよりも破壊的だ、と。

同じ時期、日本の「プロ散財家」ドリキンはnoteに「MacBook Neoを買わない理由」を書いた。新しいAppleが出たら反射で買うはずのあの人が、この1台には手を出さなかった。

同じ端末。同じ時期。真逆の評価。

¥99,800から。——2026年3月に発売された、Apple廉価ラップトップの新型。

[IMAGE_PLACEHOLDER: 家族のリビングのコーヒーテーブルに置かれた MacBook Neo とこどものお絵描き帳、マグカップの俯瞰]A18 Proチップを搭載し、10万円を切る価格でMacBookを名乗った、Appleが過去10年間触らずにきた領域の端末だ。

わたくしはIT業界で10年、企業向け研修を数千回やってきた。研修の半分は製品説明ではなく、「この端末を、誰に売るか」を読み解く仕事だった。MacBook Neoは、この「誰に」が全てを決める端末だ。——MKBHDとドリキンの評価が割れたのも、実は同じ理由だ。


公式スペックで並べる

話を進める前に、MacBook NeoとMacBook Air M5を同じ表に並べる。ここが全ての出発点だ。

項目 MacBook Neo MacBook Air M5 13"
チップ A18 Pro(iPhone 16 Pro と同じ) M5(Mシリーズ)
標準メモリ 8GB固定 16GB
標準ストレージ 256GB / 512GB 512GB
ディスプレイ 13インチ Liquid Retina(60Hz) 13インチ Liquid Retina(60Hz)
ポート USB-C × 2(Thunderbolt非対応) Thunderbolt 4 × 2
MagSafe充電 なし あり
Touch ID 512GBモデルのみ 全モデル
外部ディスプレイ 1台まで 2台まで
カラー シトラス / ブラッシュ / インディゴ / シルバー 標準4色
標準価格 99,800円〜(256GB) 184,800円〜

(2026年4月時点・apple.com/jp 公式情報)

ここから読める事実は3つある。

1つ目。Air M5との価格差は約8.5万円。同じ13インチLiquid Retinaを積みながら、MacBookの入口が10万円を切った。これはApple Silicon移行後、初めての価格帯だ。

2つ目。Neoはチップが違う。Mシリーズではない。iPhone 16 Proと同じA18 Proを、ラップトップに載せている。これが全ての議論の核になる。

3つ目。メモリは8GB固定、ポートはUSB-C 2つ、Thunderbolt非対応、MagSafeなし。ここを「削られた」と見るか、「廉価版の割り切り」と見るかで、評価は180度変わる。


A18 Proをラップトップに積む、という判断

この端末の本質はここにある。Mシリーズではなく、A18 Proを積んだMacBookだ。

A18 Proは、iPhone 16 Proに載っているチップだ。スマートフォン用として設計され、スマートフォンのワークロード——つまり、単発のアプリを1つずつ切り替えて使う運用——に最適化されている。

Mシリーズとの差は、カタログ上のCPU・GPUスコアではない。メモリ帯域幅とマルチタスク耐性だ。MシリーズのMacBookは、Chromeで20タブ開きながらZoomをつなぎつつLightroomでRAWを現像しても、メモリが詰まらない設計になっている。A18 Proは、そこまで想定していない。

——だからAppleは、このNeoをMシリーズと同じ棚に並べなかった。Neoは「廉価版MacBook」であって、「MacBook Airの下位グレード」ではない。この区別が、NeoをどうレビューするかでMKBHDとドリキンが割れた根本原因だ。

 

スマートフォンのチップを、ノートの筐体に載せた。これを『廉価MacBook』と呼ぶか、『大きなiPhone』と呼ぶかで、結論は変わる。

 


MKBHDの「破壊的」は、何に対してか

MKBHDが「過去10年で最も破壊的」と言ったのは、性能の話ではない。Appleの価格戦略の話だ。

iPhone X(1,000ドル超)、Vision Pro(3,500ドル)、Mac Pro(数十万円)——過去10年、Appleは「高くて良いもの」を積み重ねてきた会社だった。Neoは、そのAppleが初めて「599ドルで、それなりに良いもの」を出した端末だ。これは価格帯としての破壊ではなく、Apple自身のブランド戦略の破壊だ。

MKBHDのレビューでもう一つ重要なのは、推奨ユーザーの顔だ。彼は次の3つに絞って勧めている。

  • 学生(大学のレポート、講義のノート、Zoom、Netflix)
  • ライター(原稿を書く、メールを返す、軽い調べ物)
  • 高齢者(Safari、メール、写真、FaceTime)

ここに共通するのは、「マルチタスクしない」使い方だ。アプリを1つずつ順番に使う。ChromeとZoomとLightroomを同時に走らせない。この使い方に限っては、A18 Proは全く不足しない。むしろM5は過剰だ。「MacBookの体験を、10万円以下で」という提案として、Neoは確かに破壊的だ。MKBHDが言っているのはこの話だ。


ドリキンの「買わない理由」は、何に対してか

一方のドリキンは、動画・写真・開発・複数モニターで仕事をする、典型的なプロユースのパワーユーザーだ。ここから見ると、Neoの妥協点は全て地雷になる。

  • A18 Proはマルチタスク運用で詰まる。メモリ帯域幅がM系より低い
  • メモリ8GB固定。2026年のmacOSにはギリギリのライン。拡張不能
  • USB-C 2ポート、Thunderbolt非対応。外部モニターは1台まで、高速SSDも繋げない
  • MagSafe充電なし。バッテリーはガッツリ作業で減りが早い

ドリキンは同じ予算で、M4 iPad Airという選択肢を持ち出している。「10万円で買えるAppleのモバイル」という土俵で見れば、マルチタスクと長時間バッテリーではiPad Airの方が優れているシーンが実際にある——これはわたくしから見ても、筋の通った指摘だ。

つまり、ドリキンの「買わない理由」は、「プロの道具として不足」という話であって、「製品として失敗」という話ではない。彼が買わないのは、彼の使い方に合わないからだ。それだけだ。

 

MKBHDは「誰が買うべきか」を語り、ドリキンは「自分が買わない理由」を語った。そもそも違う問いに答えている。

 


所有すると出てくる、小さな摩擦3つ

NeoはA18 Proを搭載した新カテゴリのMacだ。廉価版MacBookで必ず出てくる摩擦を、類推も含めて3つ書く。

一つ目。MagSafeなし = 足を引っ掛けたときのトラブル。MacBookのMagSafeは、誤って充電ケーブルに足を引っ掛けたときに、本体を引きずり落とさずに外れる安全装置だった。Neoはこれがない。USB-C直結で、ケーブルに力がかかると本体ごと引きずられる。——日本の狭いリビングや机で、子供が走り回る家庭では、これが日常的なヒヤリに直結する。

二つ目。8GB固定メモリの「数年後」問題。2026年のmacOSは8GBで動く。しかし4年後のmacOSで同じことが言えるかは、誰にも断言できない。——メモリが少ないMacは、世代を重ねるごとに使用感が重くなる傾向が、M1 Air 8GBの事例で既に観察されている。「4年使う」と公言して買うなら覚悟は必要。

三つ目。Thunderbolt非対応 = 外部SSDの速度頭打ち。Neoは普通のUSB-C 2ポート。Thunderbolt 4がなく、高速SSDを繋いでも理論値10Gbpsまでしか出ない。写真ライブラリをSSDに出して運用する人にとって、この上限が効いてくる。——ライトユース想定のNeoでは本来そこは問題視すべきでないが、「いずれ外部SSD運用したい」と思っている人は最初から外れる。

[IMAGE_PLACEHOLDER: Neo の USB-C ポートに挿された充電ケーブルが、子供の手に引っ張られそうになっている構図]

これらを踏まえた上で、判定に進む。


IT業界10年側から見た「誰に売りたい端末か」

わたくしはIT業界の研修講師として、10万円のMacを買いに来る家族を何百組も見てきた。

この端末は、明確に3つの層に向けて設計されている。

1. 大学生・高校生

親が買うMac。レポート、講義、Netflix、Zoom、たまにSwift Playgrounds。この用途でM5は過剰だ。8.5万円の差額を学費・教材・留学に回した方が、人生の満足度は間違いなく上がる。

2. 祖父母・シニア世代

Safari、メール、写真、FaceTime。iPadでは文字入力が辛い層。MagSafeがないのは実は彼らには関係ない(充電器は挿しっぱなしだ)。Thunderboltがなくても困らない(外部SSDを繋ぐ習慣がない)。8GBメモリも、アプリを1つずつ使う限りは詰まらない。

3. サブ機が欲しい既存Macユーザー

M系MacBook Proをメインに持っていて、「カフェ用の2台目」「家の中でソファ用」「出張用のサブ」が欲しい人。10万円で、Appleエコシステム内で完結するサブ機が持てる。これは今まで選択肢がなかった価格帯だ。

——この3層に共通するのは、「MacBookというブランドが欲しい人」ではなく、「Macの体験が欲しい人」だということ。ProやAirの名前に惹かれているのではなく、「macOSで、この用途を、この予算で」と明確に言える人。

IT業界で10年やってきて見てきたのは、「Proと書いてあるから買った」人の3年後だった。Neoは、その逆を行く端末だ。「自分の使い方には、これで足りる」と言語化できる人にだけ刺さる。言語化できない人は、買ったあとに「やっぱりAirの方がよかったかも」と3年悩み続けることになる。


わたくしの判定

学生・シニア・サブ機用途の人 → 買う

¥99,800から。 MKBHDが「破壊的」と呼んだのは、この価格帯でMacの体験が手に入るようになったことだ。アプリを1つずつ使う運用なら、A18 Proと8GBメモリで全く困らない。ストレージは可能なら512GBモデル(Touch ID付き)を選べ。4年使えば1日あたり68円。——Appleエコシステムへの入口として、これ以上シンプルな端末は今までなかった。

買う

条件: 学生・シニア・既存Macユーザーのサブ機用途。アプリを1つずつ順番に使う運用で、レポート・Safari・メール・Zoom・Netflix中心の人。

理由: A18 Proと8GBメモリは「マルチタスクしない」運用なら全く不足しない。10万円を切るMacBookの体験は今までなかった。可能なら512GBモデル(Touch ID付き)を選択。4年使えば1日あたり68円。

MacBook Neo をAmazonで見る(¥99,800〜)

迷っている人・将来プロ用途にシフトするかもしれない人 → 待つ

「今は学生だけど、4年後に映像編集の仕事を始めるかも」「いまはメール中心だけど、いずれPhotoshopを触りたい」——この未来像があるなら、Neoは選ぶな。Neoは「今の用途にピタリ合う人」専用の端末だ。拡張の余地がない。用途が広がる可能性があるなら、MacBook Air M5まで手を伸ばすか、M3 Airの整備済16GB構成(約11〜13万円)を狙え。浮いたお金で外部モニターか家族との時間を買う方が、人生の満足度は確実に上がる。

待つ

条件: 4年以内にプロ用途(映像編集・Photoshop・開発)にシフトする可能性がある人。

理由: Neoは拡張の余地がない端末。用途が広がる可能性があるなら、MacBook Air M5(¥184,800〜)またはM3 Air整備済16GB構成(約11〜13万円)を狙う方が長期的に安い。

Apple公式で MacBook Air 仕様を確認(apple.com/jp)

動画・写真・開発などプロユースを考えている人 → 買うな

ドリキンが指摘した妥協点は、プロの道具としては全部致命的だ。8GB固定メモリ、Thunderbolt非対応、外部ディスプレイ1台まで、A18 Proのマルチタスク耐性——どれか1つでも仕事のワークフローに引っかかるなら、この端末は選択肢に入らない。MacBook Air M5(184,800円)か、もう一段上のPro M5(248,800円)を買え。「安いから」でNeoを買って後悔するのは、Air M5の差額を惜しんだ時間そのものが無駄だ。

買うな

条件: 動画・写真・開発などプロユースを考えている人。マルチタスク前提・複数モニター運用・高速SSD外付け運用の人。

理由: 8GB固定メモリ・Thunderbolt非対応・外部ディスプレイ1台まで・A18 Proのマルチタスク耐性——どれか1つでも仕事ワークフローに引っかかるなら選択肢に入らない。「安いから」でNeoを買う後悔は、Air M5(¥184,800)の差額を惜しんだ時間そのものの無駄になる。

代わりに検討する選択肢: MacBook Pro M5 レビュー


本記事の価格・スペックは2026年4月時点のApple公式情報(apple.com/jp)に基づきます。MKBHDの発言は2026年3月公開のYouTubeレビュー動画、ドリキンの「買わない理由」は2026年3月5日公開のnote記事を参照しています。噂・リーク情報は含みません。